にこめ
ある日の昼下がり。
「イリスっ、イリスっ」
「……?」
「今日は何を描こう?」
私は幼稚園の頃からの友達に声をかけた。緩く編んだ三つ編みを顔の横に垂らしている綺麗な子だ。
「んー、個人的に描く前に、課題の方を仕上げた方がいいと思う」
「…あ」
「忘れてたとは言わないでしょうね」
「言います」
そうだった。美術の課題で空の絵を描く物が出ていたのだった。私は男の子みたいに短い髪をぐしゃぐしゃにして唸る。
何もかんがえてなかった!どうしよう!?
「イリスはもう終わったの?」
「いや、まだだけど」
「あっ、なら一緒に描こ!」
私の申し出に親友はフッと笑ってうなずいた。
ここは部室。ほしぞら中学校の美術部の部室だ。私もイリスも絵を描くのが大好きで、この部に入った。私たちはそれなりに楽しい学校生活を送っている。
でも、ひとつ懸念事項がある。
「ちょっとー、ルウうるさい」
「あ、ごめんなさい、セレス先輩」
なんと私は、先輩に嫌われてしまったようなのである。
私たちは中学一年生だ。そして、セレス先輩は三年生。部に入ったばかりの頃はよく絵を褒めてくれる先輩で、よく話したりしていたのに、ある時から急に冷たくなったのだ。理由は、わからない。
「イリスもさ、ルウに話しかけられても無視すりゃいいんだよ」
イリスは何も返さない。先輩はため息を吐いて、自分の作業に戻った。私に向けられた背に声をかけようと言う気は一切起きなかった。
私たちは無言で、絵を描く準備をする。
絵の具を出そうと手を伸ばして、そういえば何色を使おうか、と今更ながらに思った。今まで忘れていたのだから、どんな空を描こうかという構想さえも出来上がっていない。空なら青色だろう、ということもない。夜空だったら紺だし、夕焼け空の場合もある。イリスは何色を使うのだろうと隣を見ると、躊躇いなく青を出していた。
じゃあ、私は…
少し、目を閉じる。瞼の裏に空が浮かび上がる。青空。真ん中に、太陽がある。黄色くて、ひまわりみたいな。
……よし。ひまわりが浮かんでる空にしよう。
構想が決まった途端、描きたい、と体じゅうがうずうずしてきて、私はすぐ、黄色の絵の具をパレットに出した。




