じゅうはっこめ
「ルウ、私と一緒なら引き受ける?」
「……えう、う、うん。もちろんだよ。でも、イリスはいいの?」
至近距離にある顔に問いかける。
「一回やってみたかったから」
「へぇ。知らなかった」
「うん。知らせてないからね」
涼やかな顔がふわりと綻ぶ。
なんだかバツが悪くなってぶらぶらとイリスの手を揺らす。
「イリスとルウか……そうだなぁ。じゃあ、二人とも、絵を描いてくれ」
「え?どういうことですか?描くのはレア先輩でしょ?」
私はイリスから視線を外し、レア先輩を捉える。
レア先輩は口元に手を当てて、頭の中に構図を思い浮かべているようだった。
「ルウとイリスといえば、キャンバスの前で話してるってイメージだからな。お前らが絵を描いてるところを絵に描くぞ」
「どーゆーイメージですかぁ……それ」
確かに良く相談はしているけれども。
「お前らの話、聞いてると結構面白いぞ」
「聞いてるんですか!?なるべく小声で話してるし、みんなマリア先輩には及ばずとも集中力高いから邪魔になってないって思ってたのに!うるさかったらそう言ってくださいよ!そしたら気をつけたのに!」
「いや、この前セレスが言ってただろ。うるさいって」
「あ、確かにです」
「それに、セレス以外はうるさいとは思ってないぞ。むしろ助かってる」
「なぜ!?」
「ちょうどいい気分転換だからな。お笑い番組を見る感覚と一緒か?」
「見せ物にされてる……」
なんだか複雑な気持ちだ。まあ、邪魔になってないならいいか。
「びっくりだね、イリス。私、全然気づかなかった」
そう言いながら膝を曲げ、肩に乗っているイリスの顎を外す。指を開いて手も離そうとしたが、右手だけは離してくれなかった。私の右手が少し温度の低い両手で握られている。
「私は気づいてたよ」
「えっ、そうなの?」
「うん。聞き耳立ててるなぁって思ってた」
手の動きがその時だけ鈍いんだもん。わかるよ。
イリスは何でもないように言うが、これは凄いことだ。
なんだか、イリスが警戒心の強い猫のように思えてきた。いつもぴくぴくと動く耳で周囲を観察している猫だ。
「ま、お前らはいつも通りにしとけばいいってことだ。ほい、画材の準備してきな」
「はい」
「はぁい」
踵を返したイリスについて行こうとした時、とんっと肩に手が触れた。
振り返ると、目の前に私の筆があった。
先程レア先輩に取り上げられた筆だ。
「やっぱ忘れてたか」
「あ、ありがとうどざいます」
礼を言って手を差し出す。
レア先輩の手から離れた筆は、私の掌の上にギリギリで乗った。
あと少しで、落ちるところだった。




