じゅうごこめ
「おーい。どこ行くんだルウー?」
「ちょっと待っててください!顔!顔、そのままキープです!」
「いや、疲れるぞ」
「それでもキープです!描きますから!」
「ルウ、あのな……」
筆を洗い終わって、すたたたたぁっっと再登場した私に向かって、レア先輩がふぅっと溜息をついた。
「あ、顔キープって言ったのに!酷いです先輩!……いや、待ってください。そのちょっと面倒くさげな顔も最っ高に綺麗です!描きますね!」
「おい。まて」
私が鼻息荒く筆を構えると、レア先輩の細くて綺麗な手が伸びてきた。
「ふぇっ?あ、な゛、な゛う゛ぅぅぅぅうううん!」
レア先輩の手が、私の持っていた筆を取り上げる。
「おいおい。ごろつきニャンコみたいな声出すなって」
そして、ニヤリと口元を歪めた。
「描かれるのは私ではなく、お前だ」
レア先輩が、私の鼻先に筆を突きつけた。
私は少したじろぎながら言う。
「ご、ごろつきニャンコはパワーワードすぎますって。先輩の口からニャンコという単語が聞けるとは思いませんでした耳の保養ですね」
「お前結構ヤバいやつだな」
心なしか先輩が引いた気がした。ちょっと悲しい。
「で、絵の構図なんだが……」
「あ、待ってください。私、引き受けるとは言ってないんですけれども」
私がそう言ったところで、部室にいる美術部員の一人がレア先輩に声をかけた。
「ちょっとレアー?ルウちゃんをいじめないのー」
「あぁ?いじめてねぇよ。てかマリア聞いてたのか。集中してマリアの世界に入ってると思ってた」
「さっきこっちに帰ってきましたー」
「マリア先輩集中力すごいですもんね」
マリア先輩はレア先輩やセレス先輩と同じ三年生だ。そして、レア先輩を美術部に連れてきた張本人である。これは偉業だ。美術部部員はマリア先輩に頭が上がらない。
また、異様な程の集中力を持つマリア先輩は一度自分の世界に入り込むと周りの音が聞こえなくなる。でも不意にこちらの世界に戻ってくる、そうだ。マリア先輩はあっちとかこっちとか曖昧な話し方をする。なんだかふわふわしていて夢現な雰囲気からついたあだ名は「夢の妖精」である。レア先輩とセットになることが多い。夢と雪の妖精コンビだ。
「さっきっていつからだ?」
「ごろつきニャンコ辺りから聞こえてたよー」
私は、レア先輩とマリア先輩のやりとりを眺めるのがとても好きだ。




