じゅうよんこめ
……なぁんで今思い出したんだろうなぁ…………
幼くて、拙くて、無知で、だからこそ純粋な子供の記憶。
10を過ぎたら、もう大人と同じで、なんでもできて、怖いものは何もない。そんな風に、漠然と思っていた頃の記憶。
思い出そうとしたことなんてなくて、今の今まで忘れ去っていたというのに、何故今なのだろう。
「あははっ、おっかしいの」
声に出して笑った。
もう、足が震える事はなかった。
「失礼しまーす」
私が美術室の扉を開くと、扉の近くに立っていた先輩がパッっと振り返って私の方を見た。
レア先輩だ。
「お、ルウ後輩。ちょうど良いところに……って、イリス後輩はいないのか?」
「はい。イリスは、多分、後から来ます」
「ほおぉん」
レア先輩は、少し独特の喋り方をする先輩だ。少し粗っぽく、字面だけで見ると男性にも思える。
「セレスも来てないんだよなぁ……。ま、すぐ来るか。で、ルウ後輩に頼みたいことがあるんだが……」
レア先輩が顔をぐいっと突き出す。同性の私から見ても綺麗な顔が迫ってきて、思わずのけぞった。
レア先輩の容姿は、それはもう一級品である。道ゆく人を一瞬で仕留め、その瞳で見つめられた者はもう人生に悔いはないと言い、美術部の創作意欲を掻き立てる。雪の精とも評されるほどの儚さと、儚さゆえの危うさがある。元々、レア先輩が美術部に入ることになったのも、モデルを頼まれたからだという。モデルを引き受けているうちに、自分も絵に興味が湧いたのだとか。
しかしそれほどの容姿を持っているというのに、口を開けば雪の精というイメージは霧散する。
「頼みたいこと……ってなんですか?」
「とりあえずこっちに来い」
……レア先輩、声もめちゃめちゃ綺麗なのに、セリフが!セリフが合わなさすぎる!
なんだか、アニメとかのアフレコキャストを間違えました、みたいな違和感だ。
「あの、用件を教えてもらっても……?」
「おん。良いぞ」
レア先輩の顔が、花のように綻んだ。
「私の絵のモデルをやって欲しいんだ」
私がレア先輩のセリフそっちのけで筆を洗いに行ったことを責められる美術部部員はいるまい。
だって描きたくなっちゃったんだもん。




