じゅうさんこめ
私がずっと幼い頃。イリスと出会う前くらいのことだ。
その頃の私は、お母さんよりも早くに起きたことがなかった。
なのにある日、何故か早くに起きてしまった。幼稚園が休みの日のことだった。いつもはお母さんに起こしてもらってお母さんと一緒に寝室を出ていたというのに、今日は起きても誰もいない。隣を見ると、膨らんだ布団が。よく見ると、かすかに上下していた。
あ、お母さんだ!
私はお母さんを起こそうと試みた。とんとんとん、と布団を叩く。
返事はない。
おかあさん、と小声で言ってみる。
返事はない。
次第に、お母さんを起こしてしまうのは何だか申し訳ない気がしてきた。私は布団の膨らみにちょっかいをかけるのをやめ、そろりそろりと寝台を降りる。
そこまではよかった。
問題はここからだ。
「こ、こわい…………」
寝台から降りたところで私の足が竦み、動くのを拒否してしまったのだ。
寝室を出たら、真っ暗かもしれない。
扉のすぐ先に、誰かいるかもしれない。
扉を開けたら、おばけがいるかもしれない。
今思えば、子供らしく微笑ましい恐怖だ。しかし、当時の私にとっては深刻な問題だったのである。
寝室を出ないと絵は描けない。寝室には紙も色鉛筆もクレヨンもないのだ。でも、出るのが怖い。
そこで私は、自分にある暗示をかけることにした。
「ルウはじゅうさんさい、ルウはじゅうさんさい…………」
自分のことを、13歳、つまり中学一年生だと思い込むことにしたのだ。
「ルウはじゅうさんさい、ルウはじゅうさんさい」
ルウはちっちゃくない。つよい、つよい…………!
そう言い続けた。
この言葉が何故出てきたのかはわからないが、当時の私は、この言葉で無限の勇気が出るような気がしたのだ。
「ルウは、じゅうちゃんちゃいぃぃぃぃぃぃいいいい!」
小さく叫びながら腕を精一杯のばし、扉のノブを掴む。
そして、ゆっくりと押して行った。
扉が完全に開き切ったそこには勿論何もなく。
おばけなんて、いなかった。
「ルウは、じゅうちゃんちゃいだから、何でもできるもん♪」
幼い頃の私にとって「13歳」とは、無敵のものだったのだ。




