荒ぶる神の王(8)
イザナミは片膝をつき、大きく呼吸が乱れている。
ついにここまで来た。やっとダメージを与える事が出来た。
ブルブルと体が震えた。勿論、恐怖から来るものじゃない。
武者震いである。
「へへっ」
このチャンスを逃す響樹ではない。彼女との距離を一気に縮める。イザナミは、神殺しでしか倒せないのだから。
刀が届く至近距離に入った。
「にいっっ」
向かってくる機体に対して口角吊り上げ笑うイザナミと、響樹の視線がぶつかる。
――コイツ何か企んでいる。
そう響樹が気づいた時にはもう襲い。
地中から沢山の蛇が飛び出した。
どうって事もない罠だ。いつもなら余裕でかわせた筈。しかし今回は違う。
勝利に焦り過ぎ、目先のイザナミに意識を集中しすぎてしまった。
――ズブリ。
蛇の牙が全身に刺さり絡み合う。
「坊や。貴方は大事なところで、いつも前しか見えなくなる。そこがいいところでもあるし、悪いところよ」
「母ちゃんからもよく言われるぜぇい。きちんと、左右確認しなさいってよ。へっ、互いに酷い姿だな」
「そうね。でもこの死合は、わたくしが一歩リードかしら。立場が逆転したわね。今度は貴方が歩けない」
身動き取れない王の首はねるのに、ギロチンなんていらない。
重症を負っていても致命傷じゃない。イザナミは動けるのだから。
処刑人は鱗で作った剣を、斧に変化させる。
「この蛇なんてよぉ、炎で一瞬よ……!?」
燃えない。いや燃えているが、火力は足りないと言った方がわかりやすいか。
原因は直ぐに判明した。
アラガミオンの機体に絡みつく蛇が、アマテラス・エネルギーを吸っている。
「アンタわかってるのか。いくら神でも、太陽を喰らうことがどれだけ危険か」
「死合だと言ったでしょ。賭けるのは、それぞれの魂。そうじゃなきゃ貴方たちに勝てない」
イザナミは自滅を望んでいない。沢山の蛇がエネルギーを喰らうことで、ヒノカクズチの火力を分散しているのだ。それが彼女なりの対処法である。
「無茶苦茶だな。だがそういうアンタに、俺は敬意を払う。心の底から倒したいぜ」
「あら、なら早くしないと。何処まで耐えられるか、自分でもわからない」
彼女にとってヒノカクズチが弱点なのは、変わらないのだから。
「耐える? その必要ねぇよ。アンタは俺が引導渡してやるッ」
「くすっ」
「何か可笑しいこと言ったか?」
「坊や。自分に置かれた状況をわかっているの。引導? どうやってわたくしに。イニシアチブは、まだこちら側にある」
「こうするんだよ! ぬぅぅんッ!」
響樹の気合いと共に、アラガミオンの上半身が大きく膨れ上がる。
同化して手に入れたイザナミの鱗がささくれ、哀れ蛇達はモズのはやにえとなった。
アラガミオンを中心に、勢いよく紅蓮の火柱があがる。
穴が空き洩れていたバキュームホースが塞がったのだ。
機体に供給されていくアマテラス・エネルギー。もう邪魔をするものは誰もいない。これでアラガミオンは自由に動ける。
そしてイザナミも。
「馬鹿な子ね。もう少しで、わたくしを灰にできたのに」
「アンタのためじゃねぇよ。動けないまま、首を切断されたくなかっただけだぜぇ」
アマテラス・エネルギーが機体全身隅々まで、満タンになるにはまだ少し時間がかかる。
そしてイザナミも火傷を治すには、人の魂を喰わなければ完全回復できない。
「くすっ。あそこにいる贄を食べさせてと、言っても無駄でしょ」
「おうっ! 可愛い後輩を護るのも、先輩の役目よ!」
改めて二人は武器を構えた。お互い悠長に傷癒えるまで待つわけない。
ここからは意地の張り合いだ。戦いを再開する。
瀕死だろうが神の意地。イザナミは斧を振り回す。
「下半身がお留守だぜッ!」
大地スレスレまで機体を低くし飛び込む。ヒノカクズチの狙いは足元。炎の刃が刻む。しかしそのギリギリのタイミングで、イザナミは背後へトントンとステップし華麗にかわす。
当てが外れた。今まで足が大蛇の一部だったから鈍くなると思っていたのに。それを感じさせない程に動いていた。
「だがしかしッ!」
響樹は諦めない。人の形をしている以上、足に負担はかかっている筈。
地上で蠢く虫の体勢となり、ヒノカクズチを左右に振りながらイザナミへ迫る。
「もう、そんなにローアングルが好きなの? 思春期なのね」
イザナミはバックステップをやめて、大きく足を開く。
斧を振り回し、タイミングよくアラガミオンへ振り下ろした。
「あら?」
斧から伝わるは空洞。足元に大きな穴が空いていた。
「ここだぜ」
イザナミの背後にも穴が空いており、そこにはマントをドリルにしたアラガミオンがヒノカクズチを構えている。
「そうきたのね!」
「ウラァッッ!」
首に狙いを定め、背後からヒノカクズチで斬る。
攻撃の予想はついていたのだろう。イザナミはこちらを見る事も無く斧頭を背中に回し防御する。
大きく前方へ吹き飛ぶイザナミ。だが響樹にはわかっていた。
あれはわざとだ。勢いよく飛ぶ事で受けるダメージを極力減らす。
更にこの戦法には、メリットがある。
ヒノカクズチから距離を取れるのだ。
「このあたりでいいかしらね」
斧を地面に刺し支点にして、体勢を整える。
「くそっ。ダメかぁ!」
やはり強い。なかなか思うように進まない。
――焦るなや。響樹よ。大丈夫じゃ。主はよくやっている。
リリスの声が脳内で聞こえた。
「痛たた。流石に無傷で防御は無理ね」
イザナミは表情を歪め、背中をさすっている。
「おうっ。そうだなリリスのババア」




