第四十八話 舞台の裏で・肆
眠気を誘う、午後の柔らかい日差し。
空腹の満たされた俺は居間でうとうとしていた。
「ふぁ・・・・ねみぃ・・・・」
大きく欠伸をかます。
平穏に戻ったかと思えるような時間だが、そう現実は優しくない。
災厄はいつもいきなり降りかかってくるものだった。
野太くてしゃがれたどなり声が部屋にまで突き抜けてくる。
「おい!新垣の野郎・・・っ!借金の期限が今までの倍も切れてんのに
返さねぇなんてふざけんな!!!」
あまりの声の大きさに、心臓が停止しそうだった。
普段も借金取りはくるのだがこんなにも憤然とした態度は初めてだ。
「はぁぁぁ・・・」
金なんてないのに。虚しく思いながら小さくため息を漏らす。
いっそこの家を売っちまおうかな。
そんで、俺が消えれば全部解決するはずだ。
・・・でも。
まだ死ぬ訳にはいかない。
「はよ出てこい!!約束がちがうじゃねぇか!」
返事が返ってこないことに苛立ったようだ。
今度は戸を思いっきり叩き始める。
おっさんには悪いが、ひとまず裏口から逃げることにした。
「・・・・」
あの部屋に入ると、かすかにだが血のにおいが残っていて気分が悪くなった。
つい最近の出来事、目を逸らしたくなるような事件を思い出しそうになる。
疑問に思ったのは村人が群がってこないということ。
“事件”ではなくただの“事故”として処理されたのか、
あるいは俺と親父が病院に運ばれたこと自体が公に出ていないのか。
どっちにしろ自分にとっては都合がよかった。
部屋に呑まれてしまえば、鉄の棒で殴った感触が、飛び散る血の赤色が
頭によぎる。
「え・・・?」
ぬるっとしたものを踏んでしまったようだ。
足を上げてよく見ると、乾きかけた血がべっとり付いていた。
「っ・・・うぇ」
胃袋から逆流してくる液を必死に堪えて家の外へ出る。
幸いおっさんに見つかることは無かった。
一時ここには帰ってくるのはやめておこう。
そうなると、身を置いておけそうな場所を探す必要があった。
学校は休みだし、紘斗はいろいろと大変だろうし・・・・。
「そうだ・・」
ひらめいた俺は、周りに響かない程度で呟いた。
霞河神社に行って、お参りでもしたら少しは明るい兆しが見えるかもな。
気休めにでも行っておくか。




