第四十七話 舞台の裏で・参
目が覚めたら、また見慣れない天井が視界に入った。
安らぐ畳のにおいが俺の心を落ちつかせてくれる。
温かい布団から体を起して周囲を見渡せば、障子の向こうから成瀬が現れて
「起きたのね・・。ちょうどよかった。今ご飯を作ったから食べて」
といいながら、白いご飯と具がたくさん入っている味噌汁、
佃煮を乗せたお盆を俺のもとに運んできてくれた。
「・・・成瀬?・・・」
「そんなに不安そうな顔をしなくてもいいじゃない。
ここは私が住んでる家よ。親と鈴は出かけていったから
いるのは私ひとりだけどね・・・・・」
「成瀬の家・・・・・?」
他の村民よりも豪華そうに見える家具や家屋。
規模が小さい村でも、やっぱり富裕な家庭はあるものなんだと
思い知らされた。
でも、何故そんな自分の家とはかけはなれた場所で
こうして成瀬と会話しているんだろう。
俺の思っていることが顔に表れていたのか、成瀬は目を細めて
気まずそうに話を切り出す。
「あ、あのさ・・・。昨日はごめんなさい。
あなた、だいぶ衰弱していたんだね・・・。
平手打ちしたら・・・そのまま倒れちゃって・・・」
「・・・・あ~・・・。いや、俺が悪いんだよ。
普通、友達の親が死んだ時に“良かったのかも”なんて
ほざく奴いねぇもんな・・・。
もしかして、倒れた俺を運んでくれたのって成瀬か?」
「!・・・うん。力だけはすごく自慢できるから・・・」
「そっか。ありがとな」
「・・・お礼を言われるような資格、私にはないわ・・」
沈んだ声が俺の胸にじわじわと溶け込んで、無性に悲しくなった。
いつもの成瀬と話したい。彼女の笑顔が、自分にむいてほしい。
傍観者ではなくて、舞台に上がりたいんだ。
成瀬と無関係でなおかつ嫌われてるはずの俺が
こうして彼女と二人、面と向かって言葉をかわせている。
今なら、もっと近くなれる気がした。
「その昼飯、食ってもいいか?」
「ええ。どうぞ」
すかすかの腹に、栄養満点の食材達が入りこんでいく。
久々の食事。頬が落ちそうだ。
「っ・・・すっげぇおいしい」
「そう、よかった。食べ終わったらそこに置いておいて。
あと・・・・もうすぐ家の人が返ってくるから
早いうちに帰ってもらっていいかな?」
「わかった。面倒見てくれてありがとう」
疲労回復した俺は、彼女に礼を言って成瀬家を後にする。
本当ならもっと話したかったが
“帰って”と頼まれてもなお居座るのは、さすがに非常識だからやめた。
少々残念だ。
しばらく歩いて、紘斗の家と俺の家に続く分かれ道までやってきたが
紘斗は記憶喪失らしいので今会いに行くのもどうかと思い、普段の道を選ぶ。
怒涛の数日間が過ぎ去って、春休みはわずか三日を残し
終わりを迎えようとしていた。
大雨で散った桜の花びらを踏みながら
来年の桜は満開であってほしいと期待する。
桜は儚くて脆く、まるで“命”を具現化したようなものだ。
一年中生きているのに、蕾が開く春しか目立たない。
でも・・・だからこそ、『桜』というものは
希望と光に満ちた『春』という一瞬に
人々を魅了する花の象徴となれるのかもしれないな。
柄にもなくそんなことを考えていると、家が目前に迫っていた。
開きにくくなった古い戸を横にずらす。
「ただいま」
人の温もりを求め、放ったなにげないその一言は、
『おかえり』の声もないその小さな家に、虚しくすいこまれていった。




