第四十三話 学校
ここ最近、教室内は騒がしかった。
みんなちらちらと窓側の席を見ている。
当の本人はお構いなしに寝ているっぽい・・・・。
黒い短髪と三白眼が特徴の、新垣敦。
ちょっぴり浮いた存在でみんなから一線引かれていた。
私は直接喋ったことがないから分からないけど、見た感じは無口で暗い。
三年に進級して初めて登校してきたのが今から数週間前だった。
幼い頃から顔なじみの咲が丘村の子供たちは、またかという反応だったが
今年度になってこの村に移住してきた転入生で
私と仲のいい『北條沙羅』は
「何か深い事情があるのかも・・・」と心配そうにしていた。
「ただのさぼりじゃない?沙羅は考えすぎだよ。
私たちは、何度も何度も休んでるのを見てきたから
免疫がついちゃったのかもしれないけど」
他人事なのに、と私が言っても沙羅はまだ考え込んでいる。
どうやら腑に落ちないらしい。
「さぼりかぁ・・・。う~~~ん。鼻の怪我とかさ、なんかありそう」
鼻筋を指差して絆創膏を貼る動作をしながら、沙羅は新垣敦を観察していた。
言われてみれば・・・と私も顎に手をあてて発言する。
「確かに顔の怪我ってそこまで多くなかったような気がするわ」
「!!そうだよ鈴。何か事情があるのかも。
ほら、・・・えっ~と誰だったけ・・・・“梶君”?みたいに」
「・・・辻だよ、沙羅・・・・」
「あはは。ごめんごめん」
一文字違いで惜しいよ。うん。
何度か紘斗のことを話したのに、一向に名前を覚えてくれない・・・。
蘭曰く、「“物覚えが苦手”な性格」だって。
不思議だな・・・・とつくづく思う。
私と蘭の名前は一日で覚えてくれたのにな・・・。
「早く来るといいね、鈴の好きなその彼」
“好きな”と言われて顔が熱くなる。恥ずかしい!
「・・・蘭には内緒だからね・・・絶対に」
「分かってるよ~。てか鈴、顔真っ赤っかだね」
「ほ、ほら、暑いじゃん。もうすぐ夏休みだし」
机の引き出しから下敷きを取り出して、ごまかすように仰いだ。
彼女は、お見通しだよと微笑み私の頭をぽんぽんと撫でる。
自然と新垣敦の話題は無くなっていた。
たくさん仰いでいるのに顔の火照りが収まってくれない。
私が紘斗のことを好きと知っているは、今のところ沙羅だけ。
こんな会話が出来るのも、この教室に蘭がいないから。
蘭は、昨日の件で外出禁止を言われてしまったんだ。
きっと今頃・・・・。
「どうしたの?気分悪くなった?」
少し焦ったような沙羅の声を聞いて我に返る。
かがんだ彼女の顔の後方で、教室の扉が開くのが分かった。
「・・・ううん。大丈夫だよ」
(ぎこちない笑顔になっちゃったかな?)
固まって騒いでいた男子達が各々の席に帰りだす。
沙羅も、座っている私に「先生来たね。ばいばい」と言って去っていった。
担任が教卓の後ろに立って一息つく。
「え~、おはよう。みんな、今日からもう一人増えることになったぞ」
今後の展開を予測させる発言にたちまちざわめく生徒たち。
中途半端な時期なので、転入生とは思えない。
みんな、まさか・・・と顔を見合わせている。
「入ってきてくれ。転入生がいるので、悪いが挨拶もよろしく頼む」
担任に促されて、その人は教室に入って来た。
姿を現したのは、予想どおりの人物。相変わらずの茶色い髪に茶色い瞳。
「みなさん、お久しぶりです」
少し緊張した様子だった。
「そうだ。北條も立て」
担任がそう指示すると、慌てて沙羅が席を立つ。
ぎぎぃと音を立てた椅子が後ろに下がった。
「はじめまして、辻紘斗といいます」
「はっ・・はじめまして。北條沙羅です」
やりとりを眺めながら、私は高鳴る胸を沈めることに必死だ。
顔は赤くなってないかな・・。
(やっと、来れたんだね紘斗・・・・。)
よかった・・・。
朝会が終わると、紘斗は新垣敦を引き連れてどこかに消えてしまった。
彼のいきなりの登場に動揺を隠せない生徒たち。
話題はその話で持ちきりだった。
「たしか記憶喪失になってるって聞いたが・・・」
「戻ったのか?」
「さあな。でも学校に来たってことはそういうことかも」
「新垣となんか喋ってどっか行ったけど、あいつら仲良かったっけ?」
「なんかつるまれてんじゃない?」
「こわいね。悪いことされてないかな」
「成瀬は何も知らないのかよ」
「ごめん。私もよく分からないの」
いろんな噂や話を聞いているうちに、なんだか心配になってきた。
大丈夫かな・・。
「ねぇ、鈴!まさか今日来るとは思わなかったよ」
「沙羅・・・」
驚きを隠せていない顔で、沙羅がやってきた。
「すっごくかっこいい!髪も眼も茶色って聞いたけど、びっくりするほど
綺麗な容姿してるね・・・。これは鈴が惚れるに間違いないや」
「・・・そうだね」
歓喜するはずなのに、暗い面持ちの私を見て彼女は察したようだ。
「二人の様子が気になってしかたないってか。
でも、あの二人は仲がいいって鈴がいってたじゃん」
確かにそうだった。
蘭からあの話を聞くまでは、私も確信していたのに。
「・・・ねぇ。沙羅の予測、当たってるかもしれない。
私たちが知らない間に、大変な何かが起きていたんじゃないかな」




