表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の記憶 ~二つの伝承~  作者: LEN
報復と穢れ
57/73

断章  亀裂

  

 体が言うことをきかない。

 しびれ始めた左手の神経は、今にも切れて消滅しそうだった。

 

 「敦を離してください」

  軋む脳に紘斗の声が届いてくる。

 助けないといけないのはあいつの方なのに、俺は何にも出来やしない。

 それに加えてこんな情けない姿を晒してしまうなんて。

 ( ・・・ちくしょう。)

 「なんで俺が見知らぬ人に指図されなくてはいけないんだ?

  ・・・俺はこいつの父親だぞ」

 「確かに血縁的にはおれ・・・いや、僕は関係ないでしょうが

  部外者から見たら異様な親子関係ですよ」

 ぴきっと親父の表情が引き攣ったような気がした。

 視点が合わなくてぼやけているはずなのに、鮮明に受けて取れたのだ。

 冷や汗が滴り散る。

 「異様、ね・・。君の家庭も同じようなものだろうに」

 「・・・・!」

 予期せぬ親父の一言に、紘斗は唇を固くかみしめた。


 俺はどうにかこうにか痛みに耐えて、立ち上がれるような体勢をかまえる。

 しかし、立ち上がれたところで左手は掴まれたままだろう。

 とにかくだ。あいつを家に帰らせれば不安も一つ解消されるから、

 帰宅を促すような方法を考えないと・・・・。


 嘲り笑う親父に紘斗が言い返す。

 「同じなんかじゃありません。一緒にしないでください。

  親というのは子供にとって離すことのできない存在です。

  無償の愛をいつだって授けてくれるんです。

  失礼かもしれませんが、あなたはそんな“親”とは思えません。

  少なくとも、親は子供の体を守るんであって傷つけるようなことは

  するべきではないと僕は思います」

 久しぶりに紘斗の長い言葉を聞いた。

 その言葉の先には、きっとあの人がいるのだろう。

 優しくてまるで聖母のような、玲子さんが。

 

 今はこんなこと考えている暇はないのに、ふと玲子さんの顔が浮かんできた。

 俺の前に立っている親父とは正反対。

 あんな親に恵まれて育ったならば・・・・。

 紘斗がうらやましいと思う一つの要因であった。


 母が死ななければ、父は狂暴にならなかったのに。

 何故俺と親父をのこして逝ったんだよ、母さん。


 「生意気なガキのくせして・・・」

 感傷に浸っている場合でもなかった。

 子供に説教されてよほど気が荒立ったのか、親父が紘斗に近づいていく。

 同時に俺も引きずられていく。

 この先の状況が脳に浮かんだ俺は、ただ親父を引きとめるために後ろに体重を

 かけた。

 

  睨みあう親父と紘斗。


 「お・・やじ・・・やめ・・ろ。紘斗・・に・・手を出すな。

  ・・紘斗・・・逃げろ。今なら・・間に合う」

 渾身の反抗と訴えだった。


 「うるさいな敦、黙ってろ」「大丈夫だ、敦。俺だって強いんだからな」

  

 二人が同時に言葉を返してきたので、しっかりと聴き取ることができなかったが

 紘斗の決意のある笑みをみると恐怖も少し和らいだ。

 油断は許されないというのに。


 左手が圧力から解放されたときには、もう遅かった。

 鈍い音を立てて紘斗が尻をつき、口から血を流していたのだ。

 “ぱりん”と何かが砕け散る小さな音が耳をかすめていった。

 「ガキに俺の何が分かる?ふざけんじゃねぇ。

  無償の愛だぁ?子供を守るだぁ?知ったこっちゃねーな。

  そんな偽善で塗り固められたような台詞は気持ち悪くて吐き気がする」

 「・・っ・・。そうだな・・っ!

  あんたが俺みたいなガキをぶん殴るってことぐらいしかわかんないな。」

吐き捨てるような荒々しい口調になる紘斗。

 さらに苛立った親父の足が放たれる。

 俺は反射的に紘斗の前に体を放り投げた。

 


 「ぁぁぁあああっ・・・くっ・・」

 深くえぐられるような苦痛。腹が熱くて重い。

 「つとむ!!!!!!どうして!!!???」

 

 「おいおい。こんなガキ庇う必要あんのかよ」

 あきれるように溜息を零している親父。

 少し気が収まったのか・・・。


 乱れた息を整えようとするが上手くいかない。

 動揺しながらもせなかをさする手からぬくもりがしっかりと伝わってきた。

 それだけで、力が湧き出てくるようだ。

 家の裏口を使えば、脱出させられる!

 「走るぞ、紘斗」

 紘斗の手を握り締め、俺達は恐怖の鬼ごっこを開始した。


 


 「・・・・・・」

 鬼はいうまでもない。


 「・・・・・・この俺がゆるすかよ、ガキ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ