断章 招かれざる客
紘斗の誕生日がすぎて、日付がまた変わった。
辺りは陽に照らされて眩しく輝いている。
今日は紘斗と遊ぶ日だ。何を話そうか。
計画を立てていると、玄関の戸が開く音が聞こえた。
「よく来たな紘斗!」
大声で呼びかけながら相手の元へと向かう。
廊下を右に曲がり、意気揚々と足を動かした。
あと一つ曲がれば玄関が見える。
『一日遅れたが誕生日おめでとう』といいかけたそのとき。
俺の平穏な生活は終わりを告げた。
「________!!」
思わず言葉を失ってしまう。
突然現れた来客は、待ち望んでいた紘斗じゃなかった。
ここまで絶望感にさいなまれたのは、これが初めてだ。
体が動かない。鼓動がはやくなる。息ができない。
「元気にしてたか?」
薄っぺらい笑顔を張り付けた、平凡な顔の男。
黒くてかたいぼさぼさの短髪に、厭らしく持ち上がる口の端。
底が薄れた靴を脱いで家にあがってきた。
「ぁ・・・・ぁ・・っ」
「そうかそうか、あんまり嬉しかったんだな・・・。
_____ただいま、敦」
開かれた目が、俺のこころを射る。
最近夢にみたあの冷酷な眸。
人物こそ違うがすべてをも見通すようなその眸が、
俺を縛りつけて封じ込めた。
「まあ、落ちつけ。居間でゆっくりと話そうじゃないか。・・・なあ?」
とん、と背中を押されて前へと進んでいく。
後ろからついてくる親父に怯えつつ、少し冷静になるよう深呼吸を繰り返した。
「そうだ。ところで敦・・・。“紘斗”っていうのは誰なんだ」
「!!・・・っ」
冷静さを取り戻す間もなく、強い焦燥と危機に思考回路が停止しそうだった。
(やばい。やばい。紘斗・・・!)
きっともうすぐこの家へとやってくるはずだ!
なんとか追い返さないと・・・親父に・・・。
紘斗は確実に親父を嫌っているから、勇敢な性格ゆえ
何か親父の気に障るようなことを言うかもしれない。
もし、親父が手をだしたら最悪な状況が完成する。
俺と紘斗の二人で親父一人に勝てる確率は悔しくも見込めない。
あくまで、武器を使わなければの話だ。
(___あいつだけは助けないと!!!!)
家を出る為、親父の方へと体を向けた。
「どうした」
目の前の男は少し驚いたような顔をして、俺を睨む。
背丈こそ違うもの、容姿がそっくりなのでまるで鏡を見ているようだ。
気に食わない。
少しの間親父がいないだけであんなにも楽しかったから
前よりさらに増して親父を恐れていたのだろう。
怖い相手。肉親。暴力。自分の体から流れる血。
慣れていたはずなのに
こんなにも生々しく、黒く穢れたもののように思えてしまった。
だが、紘斗に害をあたえないためと考えれば、不思議と勇気がわいてくる。
友情なんだ、と形のない繋がりを持てた気分になった。
親父を押しのけて、一歩踏み出す。
すると、ごつごつした大きな手に、俺は左手を強く掴まれ
左右に激しく捻られた。
「どうして玄関に向かうんだ?」
「痛い痛いっっっ・・っぁ・・」
あまりの痛みに耐えられず座り込む。
手首は掴まれたままなので、痛みはさらに酷くなった。
「っあああああああ」
激痛で思わず目を閉じる。
がんばって瞼を押し上げると、黒い影が玄関に接近しているのが分かった。
戸を叩く音が、張り詰めた空気のなかで重く響く。
「おや?誰がきたんだな」
「・・ぃ・・・ぉ・・と」
にやにやしながら余裕の笑みを浮かべる親父の声を聞いて
反射的に俺は叫んだ。
力の限り、めいいっぱい。
「来るんじゃねぇぇぇえぇ!!逃げろ、紘斗っ・・・・っ!!!!!!」
・・・・・声は届いたが時すでに遅し。
硝子張りの戸が荒々しく開かれた向こうには、少年が一人立っていた。
____間に合わなかった。目の前が黒く染まっていく。
「敦・・・・!?」
淀んだ視界の隅で、琥珀色の瞳が揺れていた。
今年初の更新でした。
あけまして、おめでとうございます。




