断章 虚夢
「紘斗ぉぉぉぉぉぉ!!」
荒れた声が部屋にうるさいほど劈く。
滲んでぼやける視界が次第に鮮明に移り替わり、しばらくして俺は
悪夢から解き放たれたことを知った。
「なんて夢見てんだよ・・・・。冗談じゃねぇ」
汗ばんだ額から前髪をかきあげ自嘲気味に嗤う。
気味悪いほど現実味を帯びたその夢が、正夢にならないようにと
ひたすら願った。
あんな目をした紘斗なんか見たくなかった。
冷酷で、どこか儚いその琥珀が、俺の心を見透かしている・・・。
はじめて親友を怖いと思った。
実際のものではないというのに。
帰宅したのはついさっきだったはずだが、もう宵を迎えている。
眠気は殆ど消失してしまったようだ。
再び瞼を閉じて、悪夢の続きを紡いでしまうのはどうにも避けたい。
「しばらくは起きとくか」
湿気がこもって過ごしにくいので、窓を半分開けて換気を行った。
夜空を見上げれば、星が絶え間なく瞬いている。
闇夜に浮かぶ月も見ものだが、これはこれで趣を感じる事ができて
俺は好んでいた。
ふいに、遠方に咲いている桜が目にとまり、思わず眉根をよせる。
「あの桜は・・・・。霞河神社のだよな・・・」
暗くて見えないはずの桜が、月に照らされて光っているのではなく、
桜の木自ら発光しているように見えたのだ。
綺麗だな、と声にならない言葉を零して、俺は叶わない未来を願った。
「___願わくば、あの桜のもとで四つの笑顔の花が咲きますように」
双子と茶髪と黒髪の少年少女たち。
舞い散る桜の下で、笑顔を絶やさずに遊んでいる無垢な姿。
今すぐでなくてもいい。
遠い未来、大人になってからでもいい。
甘やかで虚偽な想像はなんと愚かなものであろう。
しかしその時の俺は、そんな未来がくることを信じて疑わなかった。




