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桜の記憶 ~二つの伝承~  作者: LEN
報復と穢れ
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断章  夢うつつ

  

 「そろそろ日が暮れるから帰るわ」

  「そうか、またな」

 まだここに居たいという欲を抑えて、俺は紘斗の家を出た。

 怪我の話が終わってから数十分もたっていないが、

 あまり暗くなってしまうと面倒になる。

 町はずれのこの小さな村に街灯なんて完全に整備されていないからだ。

 「早く明後日にならないかな・・・」

 誰にともなく呟いてみる。無論、呟いた所で何も変化はしない。

 ただ、一日でもたくさん遊びたいという思いが強かった。


 もうすぐ進級だが勉強する必要もかんじることはなく、

 平穏で心満たされる、そんな日々を願っていた。

 きっと、春休みが終わる頃には・・・・。

 あいつが現れる。落ちて、堕ちて、墜ちた、そんな男が。

 俺の顔の元となった父親が。


 頭に浮かぶ、嗤った口元。背筋が凍るような衝撃がおきた。

 耳をふさぎたくなるような怒鳴り声。

 殺意を垣間見る拳や足。

 うずくまって震える俺・・。


 自分の帰るべき家が、目の前にまでせまってきた。

 このまま家の中に入ったらもう二度と出られない気がして、足が止まる。

 「大丈夫。俺は今も生きている」

 なだめるように暗示をかけて、家へ入って行った。

 

 変な気疲れの所為か、風呂から上がると眠気が襲ってくる。

 うとうとしているとまたあの苦痛な日々が蘇ってきた。


 閉め切られた、薄暗い、光のささない畳部屋が頭にちらつく。

 途端に息が詰まる思いがした。

 足ががくがく震え、歯がうまくかみ合わない。

 あざが再び痛みを引き起こしている。

 恐怖が一気に襲ってきて、思考がうまく回らなくなってしまったようだ。

 

 たすけて、たすけて・・・。

 「怖い・・。だれか・・・」


 ____あの男を殺してくれ。


 はっとして冷静さを取り戻す。

 冷や汗が頬をつたい、薄汚れた服に染みを広げていった。

 (俺は、今・・・・)

 確実に、心が黒く変化していってることに戸惑いが隠せない。

 『殺してくれ』

 悪い冗談でも、嘘でもない。

 確かに思った。この胸で。

 それはすなわち『殺す』といっているようなものだった。

 このまま放っておいたら、きっと俺は近い将来自らの手で

 あいつを殺してしまうだろう。

 

 殺して・・・・。俺は独りになるのだろうか。

 奈落に突き落とされるように、急速に俺の意識はおちていった。


 気がつくと両手が赤黒く染まっている。

 そして血を流して死んでいる父親が目の前に。

 鉄のにおいに鼻が曲がりそうだった。


 どうしてだ。何があった。

 「・・・・・・わからない」

 考えたくない。教えてくれよ。

 「自分で考えろ」


 冷めた視線が俺を睨む。二つの眸は、心が凍てそうな琥珀色をしていた。

 

 

 

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