断章 会話
二晩明けて、紘斗の家へ遊びに行く日になった。
天気は曇り。灰色の雲が薄くたなびいていて、雨が降り出しそうだ。
念のための傘と、もう一つ。
紘斗に渡す誕生日の贈り物を手に持ちながら
軽い足取りで砂利道を進んでいく。
明日で紘斗は十五歳になる。
当日は母親と二人、家でゆっくりと祝うらしいので
今日のうちに渡すものは渡しておこうと決めてきた。
「こんなんで喜んでくれるか・・?」
手元の袋の中身は、桜を模した繊細な飴細工。
春、桜が咲くころに生まれてきたということで、買ってみたが
今になってから躊躇ってしまった。
(・・・・あいつならなんでも喜んでくれるか)
辻と掘られた表札を横目で見ながら戸を軽く叩く。
「よく来てくれたな、敦」
待ちに待ったといいたげな顔をした紘斗が戸から半身だした。
俺は玄関に傘を立てかけ、挨拶を済ましてから居間へとあがった。
「いきなりだけど紘斗・・・・。誕生日おめでとうな。これ、やるよ」
袋から包装紙に彩られた贈り物を取り出し、相手に渡す。
紘斗は目をぱちぱちさせて俺と包装紙を交互に見比べた。
思考回路が迅速に廻っていなかったのか
少し間を開けてから、くしゃっと照れくさそうに笑う。
「一日早いぞ、敦。予定を考慮してくれたからなんだろうけど・・・・。
・・・・・・。ありがとな」
喜んでくれてなにより。
「特別なにもないけど、ゆっくりして行って」
包装紙を居間の卓袱台に置いたあと
足早に台所へ向かって茶の用意を始めた。
俺はというと、指示されたとおりに座布団に腰をおろして足をくずしていた。
「じゃあ、何から話そうか・・・・」
「お互い一つ一つ順序良くな」
最近の村での噂や、学校の不満、おもしろかった出来事。
釣りの話などで笑っていたり、愚痴を言ったりしている間に
時間は惜しみなく流れていった。
一区切りついて、次の話題を紘斗が話し始める。
「そういえば、昨日一昨日ぐらいから蘭と鈴は巫女の活動を
再開したらしい。そろそろ蕾が開花しそうだって近所のおばあさんが
縁側からぶつぶつ零していたのも俺聞いたんだ」
「へえ・・・・。そう。もうそんな時期か。春休みが忙しいって
なんだかかわいそうだな」
「でも、二人ともやりがいあるってさ。成瀬家は昔から伝統が継がれている
由緒正しい家系だから、あの霞河神社の桜につくことができるんだよな。
すごいなあ・・・・。」
嬉しそうに語る紘斗を見ていると、本当に三人は仲がいいってことが
ひしひしと伝わってくる。
小学校からの付き合いらしく、俺よりも付き合いが長い。
それが無性に悔しかった。親友の座は渡すもんか。
じわじわと対抗心が燃えてきた。
別に、あの双子が嫌いなわけではない。
容姿もいいし、根が優しい。周りに気を配ってくれる。
村の人からも信頼され、愛されている。
きっと、家族は溺愛しているんだろうな。
元気でおっとりした妹の鈴、活発で勇敢な姉の蘭。
『蘭』・・・ラン。可憐で、なおかつ妖艶な響き。
嫌いというよりも、むしろ・・・。
「・・・・・ら、ん」
「敦、何か言ったか?」
「いや、何も言ってない!!」
うっかり声に漏らしてしまった。
そうだ、俺は蘭の事が気になっているのだ。
見た目は可愛いし、なにより勇敢ってところがぐっとくる。
顔だけなら、妹も一緒だしな。
初めての気持ちに想いが耐えきれないほど・・・。
それほど俺は、愛に飢えているのだろうか。
中学年には学校全体の三割もいなくて、毎日一緒の学級にいれる事が
ささやかな喜びだった。
この気持ちは、恋なんだ。
家族からの愛を欲した故のものではない。
この恋を叶えてくれという願い。
この想いを届けたいという衝動。
そして、行く手を阻む壁。
______向こうは、俺の事を毛嫌っている。
紘斗にうざくからまっている輩としか見ていない。
「・・・とむ・・・おい!!敦!!!!」
大声に反応して体が震えた。
「大丈夫か?ぼけ~っとふさぎこんで」
「ああ。悪い。続けてくれ」
「それでな、その神社の桜がもしかしたら来年あたりで最期を迎える
かもしれないってさびしそうに呟いていたんだよ。
なんでもその桜についている桜の神の『風雅』って奴と仲が
よかったみたいで・・・」
「残念だな・・。もしも、来年で桜が最期を迎えるのが確実なら
今回がその風雅って神の巫女につく最後の春になるんだろうし」
少ししんみりとした空気になるも、紘斗がすぐに切り替えた。
「まあ、大丈夫だと思う。二人とも元気にやってるって。
そうだ、この包装紙今開けてもいいか?」
沈んでいた碇が地上に引きずり上げられたような思いがした。
体が熱くなる。
せっせと小遣いをためて買った物だ。
気持ちはきっと伝わるはずだよな・・・。
「あ~~~~~。・・・・・・。いいぜ」




