断章 釣り
「お、来たか。今回は長く遊べるぜ」
翌日、約束の時間より早めに付いた俺は、もう一人が来るのを待っていた。
親父に縛られずに、ずっと遊んでいられる・・・、と期待に満ちた面持ちで。
はたから見ればちっぽけな満足感に過ぎないだろうが、
俺にとっては大満足ならぬ超満足だった。
向こうも早く家を出たようで、集合が少し早くなったようだ。
「おい・・・その怪我・・・」
「まぁ、気にすんなよ。いつもの喧嘩だ。
気分転換におもいっきり遊びつくすぜ」
顔に影を落とした相手の肩を軽く叩く。
「・・・ああ」
「腑に落ちないって顔にでてるぞ」
「そっか、悪いな、逆に気を使わせて・・・」
不安な表情をさせないように、体を隠す服を選んだが、
顔に出来た痣はどうにも隠せなかった。
日ごろから顔を怪我することはないので、口や頬の腫れ具合は
こいつにとって異様なものだろう。
「今日はどうする?」
「とりあえず、川に行って魚釣ろう!!!!あとは、え~~っと・・」
「落ちつけ。ひとつずつやっていけばいいじゃないか」
「・・はは、そうだな。慌てすぎた」
気を使い、元気にふるまってくれていることがもろに分かる。
こいつは根っから素直で純朴な奴だ。
(・・・俺とは真逆なんだよな・・)
「やっぱり朝は、空気がおいしい」
「自然には恵まれているからな、この村」
川に向かうため、この間見つけた近道を通って、林の中に入ってゆく。
目的地は、おいしくて珍しい魚がまれにとれる俺達だけの秘密の場所だった。
「竹がずいぶんと生えていて道が分かりにくいや・・・・」
「お前なら迷子になりそうってか、確実になるわな」
「ひっでぇ。俺は昔からここら辺を訪れてるんだ。迷うわけがない」
「そうかぁ?『やばいよ・・・。帰り道わかんねぇ・・・』って
情けない顔で呟いてんのが想像できるぞ」
声の真似をしてみたら、おかしくて二人でげらげら笑い合った。
たわいもない会話がたまらなく楽しい。
性格はまったくもって違ったが、趣味が同じな俺とこいつは
あるきっかけから親友になった。今でも当時の事が忘れられない。
俺の家族関係のことを知っているのはこいつただ一人だけで、
俺が心を許すのもこいつだけ。
とにかく俺達は仲が良かった。
穏やかな光がたっぷり差し込む竹林。
奥までくると、神秘的な雰囲気を醸し出す。
「ついたぞ。じゃあどっちが数多く釣れるか勝負な」
木の枝に持参した糸と針を取り付けると、透明な川に投げ入れた。
「俺の釣りをなめんじゃねぇぞ」
意地悪く、相手を煽る。
勝負をするのも、こいつとならやる気がでるものだから不思議なもんだ。
お互いに黙って、ぴちぴちと跳ねる魚を岸に上げる作業を繰り返していた。
ときたま、俺は向かい側に座っているあいつの様子を眺める。
優しい木漏れ日が、蒼く輝く竹に、せせらぐ川に、そして
あいつの綺麗な茶色い髪に反射して、やわらかく輝いていた。
まるで絵にかいたような風景だった。
「何見てんだ、敦」
怪訝そうにこっちを見ているあいつと目が合う。
ははは、と愉快に笑って俺は答えた。
「いやぁ~なんか紘斗の髪が綺麗だなって・・・」
「・・・なんだよ、いきなり・・」
少し気味悪がられてしまったようだ。
「それは冗談で、何匹釣れたか?」
「今ん所五匹だな」
なんだ、ただの冗談かよ・・・とあきれ顔をするのが分かった。
冗談っていうのが冗談なんだがな・・。
思ったけれど言わなかった。
「おい、敦!!釣れてるぞ!!」
言われてから手元を見たら、黒い影が見えたので、急いで枝を振り上げた。
ひっぱられた小魚が打ち上げられて勢いよく跳ねている。
「よっしゃ、追いついた!!!」
今の魚で紘斗と同数になったので、勝つ確率も上がった。
しかし、相手はまったりと構えて落ちついている様子だ。
「・・・ふっ。追いついた所だが・・・俺も今またかかった」
余裕そうにしゃべりながら、
綺麗にすばやく魚を釣り上げる。見事な手つきだった。
「まだまだ勝負はつかないな」
「夕暮れまでねばってやる」
辺りが薄暗くなるまで、戦いは続けられた。




