第四十一話 料理
割った卵をとき、しょうゆや砂糖を適量加えた。
懐かしい、母さんの作って切れた卵焼きの味を
さっきまで忘れていたことが不思議でならない。
油をひいて、半分くらい溶き卵を流す。
食欲をかきたてる威勢のよい音が胃の中にまで届きそうだ。
「あ~はやく食べたい」
誰にともなくそう呟く。お腹がすきすぎて力があまり入らない。
ようやく形になって来たところで、残りの溶き卵を全部投入した。
しばらくして、卵焼きを作り終えた俺はご飯を炊いていないことに気付き
炊くか炊かないかを迷い続けた結果、炊かないことに決めた。
飲み物と箸を用意したら、あとは食べるだけ。
「いただきます」
ゆっくりと口に運び、一切れまるまる入れ込んだ。
瞬間、口の中でふわっと卵の味が広がって
味付けの砂糖がいい具合に後味をひいた。
・・・・・でも、でも。
「母さんの味じゃないんだよ」
あの卵焼きは、二度と食べられない。
またしゃくりあげそうになったので、我慢してぐっと堪えた。
せっかくの甘い味が、しょっぱくなってはもったいない。
もう一切れ、もう一切れ。
何も考えずに箸を進めていたら、皿の中が空になってしまった。
(足りないな・・・。まあ、いいか。作るのめんどくさいし)
残っていた水道水を一気飲みして、片づけをすませる。
掛け時計を横目で見上げると、時計の針は丁度午後二時を指していた。
調理開始からあまりたっていないな・・・・・。
椅子に深く座り込み、うとうとしていたら重大な問題に気付いた。
顔が青ざめていく。
そうだ、俺は記憶を取り戻したときに
探し物の生徒手帳の場所も思い出したんだ。
その場所だが・・・何を隠そう、
「どっかに落としたままだったぁぁぁぁぁぁ・・・!」
意識がとぶ前から手帳を無くしてしまい、分からないのだった。




