第三十三話 存在
良く晴れた空に、常盤色の葉が映えている。
俺はまだ整備されていない歩道を通り目的地へ向かっていた。
場所はよく分からないが、足が進むままにただただ歩く。
今と昔で景観はあまり変化していなかった。
透き通った水が流れる川を渡る。
差し込む光に水面が反射して、美しく輝いていた。
耳を澄ますと、独特な旋律が聞こえてくる。
だれしもが必ず耳にする、あの鐘の音が。
「この音は・・・学校のか?」
閑静な住宅路がたたずむ中、遠くに校舎を見つけた。
早く蘭と鈴に会いたくて夢中で走りだす。
木造で素朴な雰囲気のあるその建物からは複数の子供たちがでてきた。
校門付近で二人を待っていると、違う人物が俺に近づいてくる。
見た目は俺と同じぐらいだ・・・・。
「おい、おまえ」
「・・・・・え?」
「ちょっと付いてこい」
いやな予感はしたが、恐怖心はなかったので
しぶしぶ彼に付いていった。
この選択が、間違っていたと気付くまであとわずか。
「紘斗、相変わらずだな。その態度」
「・・・えっと・・・・誰ですか?」
いきなり呼び出して何だろう・・・。知り合いか?
相変わらずってことは・・・俺みたいな感じの人だったんだ。
俺を敵視するように睨む彼は、どうやら友達ではなさそうだ。
「何とぼけてるんだよあほ。おまえと同級の新垣だよ。
新垣敦。おまえさあ、休み呆けしてやんの。
羨ましいねぇ。親が死んで誰も身寄りがないから長い休暇をもらえて」
敦という少年は愉快そうに嗤った。人の不幸を羨むとは性格が悪い。
こいつと関わりたくないや。気分が悪くなって悪態をついた。
「全然良くなんかない。葬儀だって大変だったし、書類の整理も、
他の生活関連についても苦しかったんだよ」
きっと、この紘斗という人も耐えきれない思いがあったはずに違いない。
「いきなり口答えかよ。相変わらずとは言ったが・・・。
撤回する。本当に中身がからっぽなんだな」
「・・・・・?失礼だな」
にらみが強くなる。形相的に不良の一部か?
粗く切られた黒髪や、鼻に張られた絆創膏がよりいっそうそれを思わせた。
「ちょっと躾が足りねぇな」
敦から蹴りだされた足が、俺の腹に食い込んだ。
突然の行動に戸惑いを隠せない。
「うげっぇっ・・」
強烈な痛みが瞬時に広がり、膝から崩れる。
「汚い声出すなよ」
敦は目を細め、嫌みたらしく耳をふさぐしぐさをした。
痛い。苦しい。
普段はこんな痛みを感じない。
痛みになれていない俺は、みじめにも起き上がれなかった。
そんな俺の髪を引っ張り上げ、こいつは醜くげらげら笑う。
どっちが汚いんだか。
「あぁん?なんだよその目は。
なあ、お前の茶色い目ってさ、
確か母親ゆずりなんだよな。この茶色い髪も・・・」
品定めをするように眺める視線に悪寒が走る。
声がまだでない。
「この村にお前以外だれも茶髪なんていないんだよ。
お前は浮いた存在なんだ。謎の生物なんだ。
だからさ、“村から出ていけよ”早く。
もともとここはお前がいていい場所じゃないって
ことは自分で分かってるんだろ。なあ?辻さんよぉ」
ふつふつと怒りが湧き上がる。いくらなんでも酷すぎる。
酷いってもんじゃない。俺からすれば初対面のやつにいきなり
罵倒され蹴られたのは衝撃的だった。
ぷちん、と糸が切れる。
「ふざけんなよ!!俺はちゃんとした人間だ!!」
激しく吠えた。自分でも信じられないほどの憎悪を込めて。
ここまで怒り任せに叫んだことも初めてだ。
人間になってから、感情が制御できない。
理性が保てない。さまざまな感情に左右されてしまう。
「このくそ野郎・・!!」
敦の右手がとんできたときに、その声は聞こえた。
「紘斗・・・!?そこにいるの・・・?」
ゆっくりと、敦のこぶしが目の前に迫ってくる。
ああ。俺はここにいるよ。
悔しくてたまらないんだ。助けて__________蘭。
久々の更新でした。




