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第二十七話  募る思い


  動きたくても、体調がどうにもすぐれない。

 神楽はそれがもどかしかった。

 雨の中、薄着で地べたで気絶していた所為なのだろう、と原因を思い起こす。

 ばちんと痛々しい破裂音を出して、歩き始める。

 赤く腫れてきた頬からはかたい決意が見えた。


  

  *


  「どこにもいない・・・・」

 息を切らして、地面にしゃがみ込む。

 入口から奥の方まで捜したが、二人の姿は見つからなかった。

 空はまだ暗いが、少しずつ夜明けに近づいている。

 辻の様子も気になるが、楓の安否も心配だった。

 「楓・・・。家に帰っているのかも、うん。そうだよ」

 なるべく良い方へと思考を変えようとするも、不安は全く拭えない。

 「夜中に出ていくなんて・・・・。私の我儘がいけないんだよね。

  ごめんなさい。」


  

  知ってるんだ、私。楓が優しいことを。

  楓は楓だけど、あの子と繋がってる。

  きっと楓は、『掟』のある私に同情して、『罰』が下らないように

  傷つかないようにしてくれているんだよね。ありがとう。


  好奇心旺盛なのも知ってるよ。

  記憶”が完全になっていないから、知りたいんだよね。

  辻君が見える力、私にはあってあなたにはない桜の形をした痕。

  その奥に隠された、私たちの絆。


  私は、そんな優しくて好奇心旺盛な楓が大好きだよ。

  だけどね、ほんとうは少しうらやましかった。


  『掟』も『罰』もなくて、自由だから。

  お父さんからもお母さんからも愛されて、すくすく成長していくから。

  ときには私を庇ってくれたあなたを、憎いとさえ思ったこともあった。

  私にはむけられない親の愛を一人占めにしているって。

  いい子ぶって点数を稼ぐ気なんでしょって。


  楓は覚えてる?最後にあなたがお父さんに反抗した日の事を。

  一緒に和室に閉じ込められたよね。その原因ももちろん私だった。

  うっかりしていて“記憶”についての事を口に出した私は

  その日の夕食が無しになった。

  見かねたあなたは親の目を盗んで、自分のご飯を私の部屋へと

  運んでくれたね。そして見つかっちゃたんだ。

  今みたいに暗い部屋の中、私は『楓、もう私に構わないで』って言った。

  でも楓は『どうして?俺、姉ちゃんが好きだよ。お父さんも

  お母さんも冷たいけど、俺は姉ちゃんの味方だから』なんて


  かっこいい台詞を返してくれるから思わず涙がこぼれたの。

  それなのに、私は『あんたには私の辛さが分からないからそんな余裕を

  かませれるのよ!!』って馬鹿な事を怒鳴ってしまった。


  その時のつらそうなあなたの表情が今も忘れられない。


  

  ・・・・楓。どうか無事でいて。

  見つかったら、きっと伝えるよ。

  卑屈で汚い私だけど、傍にいてくれてありがとう、

  ご飯をくれた時、傷つけてごめんねって。

  だから、早く出てきてほしいな_______。





  「あっ・・・!」

 神楽はふと閃いた。

 (二人とも消えて二人とも見つからないという事は・・・)

 もしかしたら、辻君と楓は一緒にいるのかもしれない。

 だとしたら少し安心できる、と神楽は再び立ち上がった。


  「きっと見つかるよね」

 残念なことに、数時間たっても神楽が二人を見つけることはなかったのである。

 長い夜は、まだ明けそうにもない。



  

今回は少し長くなった気がします。

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