第二十四話 白と黒の狭間
二人は走る。白く洗練された異空間の中を。
少女の手の温もりが、楓の恐怖心を少しだけ和らげた。
「こんなところに入れるなんて・・・・・。君は、いったい何者なんだ?」
「まだ、秘密。もう少し、もう少しで分かるから」
この空間はとても異質である。
外では触れられなかった少女の体が生身の体のようになっていた。
楓の右手に伝わる優しい温もりがその証拠である。
声も、より鮮明に聞こえてくる。
元気があって、可愛らしい女の子の声。
楓は十四歳なので、そろそろ声変わりの時期だが
まだ少女と似ている高い声だった。
心配そうにぽつりと言葉を零す。
「辻さんも、この場所にいるのかな___」
辻が巻き込まれた惨事が起きてからすぐに少女が駆けつけ、
燃えている桜の木へ自ら登り始めた。
炎に飛び込んでいった少女が危険だ、と楓も後を追っていくと
いきなり炎に巻かれてこの空間へ来たのである。
「・・・黒い、靄がかかってるわ・・・」
進むたびにどんどん暗くなっていく。奥はもう見通せない。
「楓、気をつけて。くれぐれも闇に呑まれないようにね」
手をひかれ、暗闇の中へ突き進んでいく。
楓は少女に聞きたいことがいくつもあった。
君は僕と前に会ったことがある?
この場所では触れられるの?
ここへこれたのはどうして?君には力があるの?
しばらくすると、見覚えのある人影ともう一人・・・
知らない男の姿が見えてきた。
暗闇なのに、何故こうもはっきりと確認できるのかは分からない。
ふと少女の歩みが止まる。顔が妙に沈んでいた。
「・・・・・どうして、風雅が・・・?」
「あの人?誰だろう・・・」
楓は少し頭が痛くなった。瞼を閉じる。
脳裏に浮かぶのは・・・茶髪の少年と、目の前にいる少女に似ている子。
また、この現象・・・・。
僕には、何か大切なものがあった。何かは分からないが。
とても大切な、大切な______。
「いくよ、楓。辛かったら我慢しなくてもいい」
勇ましく向かっていく少女の背中を見つめ、楓も続いた。
「・・・楓!どうしてここに?一人でどうやって・・」
辻が驚いて声を上げる。 やはり辻には少女が見えてないようだ。
「___よう、坊主。と、・・まぁいいか」
もう一人のこの男性はどこか引っかかる感じがした。
「辻さん・・無事でよかったです。この方は・・・・?」
「俺の名前は風雅、こいつ、辻と一緒の桜の神だ。
おまえは楓だな。うん、間違いない」
辻が説明する前に風雅が自分で紹介していた。
辻と楓は目と目で会話を始める。
『辻さん、どうしてこの人は僕の名前を知ってるんですか?』
『すまん、俺もついさっき会ったばかりでよく分からないんだ』
『桜の神って・・・』『ああ、俺の一つ前についた長寿の桜の神だってさ』
お互いに頷きあい、風雅を見つめる。
少女は、息をひそめて三人の様子を眺めていた。
辻と風雅と、楓。自分の持つ記憶と重なり合う。
風雅は少し可笑しそうに語った。
「そりゃあ疑問がつきないな、ははっ、まあゆっくり聞いててくれ。」
それから急変して静かな口調になる。
「おまえたちの“失った記憶”についての奇妙な話をさ」




