第一話 咲が丘村の「長寿の桜」
不思議な伝承が残る「咲が丘村」は、桜の木に神が宿ることで有名である。
人口は三百人にも満たないごく普通の村であるが、自然に恵まれた土地で周りは全て山に囲まれており、綺麗な景色を目当てに観光に来る者も多い。春になれば見事な桜が咲き誇り、村全体に活気が溢れる。そんな中で特に忙しくなるのが「桜の神」と「巫女」であった。一本の木に一人の神が宿り、だいたい二人の巫女がつくので、開花をすれば神も少女も全員総出で働かなくてはならない。
というのも神の仕事は自分の宿る桜の木に祈りを捧げて花を綺麗に咲かせることであり、その工程を支える手伝いを行うのが巫女の仕事であるからだ。昔から代々つがれてきたこの風習は、世代を超えて今も受け継がれている。
また、最期を迎える桜には巫女はつかず、その木の神が最後の開花を惜しむように全ての力を使って妖艶な満開の花を咲かせるという。そして、力を使い果たした神は新たな芽となって土壌に沈み、その芽が成長して苗木となると新しい神が宿る。いわば桜の守り人の命のリレーである。
桜の本数に対して女児が少ないこの村では、巫女の数も多くはなく、緊急で村の子供に手伝いを頼むことも頻繁にあるそうだ。
この春、最期を迎える桜はたった一本。
村の神社の中の高台に立っている、とても巨大な樹。それは、村の中の最古となる桜である。通常親しまれている桜の寿命は、約六十年。しかし、その桜は百年を過ぎ、今年で百二十六年目を迎えた。こうした理由から村人に「長寿の桜」と呼ばれている。
今は三月の下旬で桜全体の八割が開花していたが、長寿の桜はまだ蕾が開かないこともあり、見物に来る者はまだいない・・・・はずであった。ある日の日差しが強くなってきた午後。苔の生えたアスファルトの階段に、ひとつ、くっきりとした輪郭の影が地面に伸びている。
黒髪を揺らし、一人の少女が「長寿の桜」を祭っている神社の鳥居をくぐった。表情は少し不安そうだが、反面期待を抱いているような眼差しをしていた。
いきなりの村紹介でした。※設定や人物はフィクションですのでご注意を。
自分なりに設定を頑張ったつもりです。




