第十一話 伝承と鍵
悔しい。悲しい。憎い。
女の念は膨らみ続け、大きな闇となる。
どうして、私がこんな目にあわないといけないのだろうか。
悪いことなどしていない。していないのに。
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咲が丘村の「長寿の桜」にまつわる伝承は、
今からだいたい百五十年前ぐらいの話である。今の桜は百二十六歳。
だから、伝承が残る桜はもう無くなっており、新しい桜が「長寿の桜」と
呼ばれ、親しまれていた。誤解しないでほしいのは、「長寿の桜」が直接
伝承に関わりをもっている訳ではないことだ。
人は、小さい頃聞かされていた話を、大人になって子供に聞かせる。
昔話やその地域特有の歌などはこうして語り継がれていく。
桜の伝承もまた村人の間で語り継がれ、村民なら誰でも知っている。
しかし、語り継がれるのは、まんまの事実ではなく
子供に悪影響を与えない為に優しく包んだ言葉で繕われた物語であった。
「昔、ある女の人が悪いことをして、捕まったとさ。その女の人は自由に
なりたいと、桜の神様に願ったそうだ。神様は女の人の願いを叶えて、
足かせを外し、自由にした。でも、ただ願うだけではいけない。
『大切なもの』と引き換えにする必要がある。女の人は悩んだ末に
『人生の五分の三の時間』を渡した。その結果、女の人は自由になってから
数年たつと死んでしまったとさ。おしまい」
まあ、これだけでもかなり重い話だ。
謎は埋もれて見えなくなっている。
偽りの真実はどうであったのだろうか。
他に関与しているものはないのだろうか。
鍵を握るのは、霞河神社の敷地の奥にある、小さな倉庫ともう一つ。
一条家の地下室。そこに、隠された真実がある。
真実はいつも闇に呑まれ、跡形もなく砕けてしまうもの。
はたして、彼はその閉ざされた真実を見出すことはできるのであろうか。
自らの記憶とともに。




