第十話 手掛かり
辻の笑顔は、見た目よりも少し幼く見えた。
まだ、大人になりきっていない、あどけないその笑顔が楓の頭に移される。
霞んだ記憶と綺麗に合わさって__________。
「どうした?楓。具合が悪いのか?」
心配そうに辻は訊ねた。
「・・・いえ、大丈夫です。ありがとう・・ございます。
えと、辻さんこそ大丈夫ですか?少し様子がおかしいですが・・」
逆に楓が気を使った。彼にしてはめずらしいのろのろとした歯切れの悪い台詞である。辻は少し気になった。
「あ・・・。そう言われると少し頭が痛いな・・」
「!長話すいませんでした。そろそろ親が出張から帰ってくる頃だと
思います。先に家に帰した姉ちゃんの様子も心配だし、僕も帰ります」
焦っているのか彼は早口で謝ると、辻に別れを告げた。
「数時間、付き合いありがとうございました。では、またいつか」
丁寧に一礼し、踵を返して自分の家へと向かう。
神は「そうか、またな」と短く返して走り去っていく少年を見送る。
楓の小柄な体がどんどん遠ざかり、見えなくなった。気がつけば、太陽は斜めに高く昇り、楓と再び会ったあの薄暗い朝が昨日のように思える。密度の濃い数時間だった。
「どうしてか、会うのはゆっくりで、別れるのは早いんだよな・・」
口に出して言うとなんだか可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
*
日差しが強くなる、正午が近い。
楓は家の近くまで来ていた。重い足取りで歩みを進めるも、なかなか進まない。休憩がてらに近辺の並木の下に座り込む。
「何だったんだ・・?さっきのあれは・・・。辻さんの笑顔に重なったのは__ __。でも、だったらなんで___。姉ちゃんは、全部しっているのかな」
神楽に聞き出すべく、楓は腰を上げるとさっきとは打って変わった速さで家へ帰った。




