第九話 神頼み
桜の痕は、「桜の神」という証であるが、神楽は神ではない。
特殊な巫女でもないとなれば、いったいなんなのだろうか。神楽にしろ、楓にしろ、不思議な力や記憶があるという時点で普通の村民とは考えられない。今までに例を見ないなんとも奇妙なことである。
辻はぽつりと呟いた。
「なぜ、神楽には痕があるんだ・・・・?それも、俺と同様に背中に__」
その呟きを楓は聞き逃さなかった。
「同様にって・・・辻さんもあるんですか?背中に。
というか、花形の痕って何かの意味があるんですか?」
そうか、と辻は思った。いくら神の姿が見えてても、神も着物を纏っている
から桜の痕は隠れて見えないのだった。
「え・・っとな・・・。桜の痕っていうのは、桜の神々全員に刻まれているもので、その痕がないと神 として扱われないんだ。そして、俺にはその痕が背中にある。神楽と同じように。
なぜ、神楽は人なのに痕があるのかはいまいち分からないが・・・・・」
それから辻は思いついたように、楓に問いかけた。
「なんなら、見るか?」
今彼が纏っている淡い桃色と純白の二色で彩られる薄い着物を指でさし、腰の巻物とそれに付いている金属の飾りを外した。楓は「じゃあ言葉に甘えて・・・お願いします」と頷く。辻が上着を剥ぐのを待って、目の前に晒された彼の背中を見ると、そこには綺麗な桜の花弁の痕が深く刻まれていた。
なんとも神秘的な造形を見つめながら、楓はある疑問を口にした。
「あれ・・・でも、姉ちゃんは花の原型の痕だったような・・・」
すかさずに辻が答える。
「ああ、それはだな___性別の判断をするためだ」
「性別の判断?男は花弁型で女は桜の花の原型・・みたいな?」
「その通り。察しがいいな」
なるほど、そうですか。と腑に落ちたようだった。
「もういいか?服着て」
「はい、ありがとうございました」
辻は木の枝にかけた上着と帯などを一つずつ手に取ると、ゆっくり着替えた。
「まだまだ謎は多いな・・・・。そうだ、楓。俺も何か手掛かりを掴めないか探してみたり、記憶につい て何かを覚えてないか考えてみたりするからさ、よければ会いに来てよ。神楽には悪いが、罰を受けな いために一人で」
(辻さんはほんとに優しいな・・・・。)
おもわず笑みがこぼれる。相談したことで心が軽くなり、温かい気持ちになった。神であるのにどこか親近感を持ってしまう。
「辻さんには感謝でいっぱいです。どうか、お願いします」
「まあ期待しててよ」
神は、ニッ・・と笑って胸を張った。




