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第七話  神社へ来る客

 

 夜が明け、朝が訪れた。春とは言えど、早朝はまだ肌寒い。長寿の桜の神、辻は他の神よりも五感が優れていて、暑さ寒さなどの温度変化にも敏感である。

手で腕をさすり、体を温めながら目を覚ました。

「・・・・あれ・・・」

(・・・誰かがいる。こんな朝は早くから誰だろう)

濃く広がる霧の中で次第に相手の顔の輪郭がはっきりと表れ始めたが、まだ人物を特定するまでは至らなかった。ぼやけた視界のなかで黒い影が少し揺れ、何かを言ってる。

 「・・・・さん。・・・・さん」

聞き覚えのある声。

 「起きましたか、辻さん。僕です、楓です」

 「か、えで・・・・?」

 「はい。早朝から申し訳ありませんが、少し付き合ってもらえますか?」

 

 「・・・・・」

大きな双眸がのぞきこんでくる。思考が上手く回らず、神はただコクコクと頷くことしかできなかった。楓はほっと息をつくと再び辻に向き直る。

「お詫びに、辻さんの知りたいことをできるだけお答えします」






 少しずつ、空が明るく変色していく。

太陽が昇るまであと少しの時間になった頃、辻と楓の話はだいぶまとまった。

「・・・なんだ?つまり、楓と神楽は『不思議な力』があって俺の姿が見え、俺 に関係する『不思議な記憶』がある、と・・・・」

話の要点をまとめてみたら少しは理解できたが、全部を理解することは不可能だった。

「でも、僕は・・はっきりとした記憶はないんです。一つでも手掛かりを求めて辻さんに会いにきたんですが・・・」

辻は頭をかいた。

「ごめん。俺、何一つ覚えてなくて・・・・」

「あ・・いいえ、僕の我儘に付き合ってくれてありがとうございました」

楓は辻にお辞儀をして話を続ける。

「では辻さん、なにか知りたいことはありますか?」

「知りたいこと・・・・。いくつぐらいしていいのか?」

「いくらでもどうぞ」

辻は頭の中で質問を整理する。

「えっと・・じゃあまず・・・楓は昨日と今日で雰囲気が違うし、昨日は俺が見えていない感じだったが、それはどうしてだ?」

「・・・そうでしたね。昨日はごめんなさい。実は、前々から見えていたんですよ。

 家の事情で、姉ちゃんに僕が辻さんを『見ることができる』のを悟られないようにした演技でした。」

耳を疑うような内容に新たな疑問が浮上した。

「続けて悪いけど、どうして神楽に知られてはいけないんだ?それに、楓は手掛かりを求めてこの神社に来たと言ったが、確かこの場所は来てはいけないはずなんだよな。」

すこしの間が開き、ゆっくりと楓は答える。


「辻さんは、信じてくれますか?」

期待と懸念が混じったようなまなざしに、辻は唾を飲んだ。

「・・・・一体、何を、だ」


「_____僕たちの、おかしな話です」

まだあどけなさを残しているはずの少年の引き攣った笑みが、ひどく悲しかった。歪んだ口端が戻り、楓は語り始める。

「僕は掟が無く、自由です。だけど姉ちゃんは・・・・・っ姉ちゃんだけは  『掟』がたくさんあり、それを破ると重い『罰』が下るんです。」


 悔しさを隠せないのか、きつく噛んだ唇は僅かながら震えている。

『掟』と『罰』・・・それらが担いでいる言葉の重さと響きに、神は息を呑んだ。



 

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