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大好きだから ㊦

続きです。


スッと目を閉じて、手すりから上半身をゆっくり乗りだす。

後少し…。


「さくら!!!」

グイッ!!

「ひゃ…っ!?」


境内の静かな空気を切り裂くような大音声の怒鳴り声が聞こえたかと思うと、ほぼ同時に後ろに強く引っ張られ、後ろ向きに倒れてしまった。

…けど、あれ?

痛く、ない…。

それに、今の。

いまの…こえ…。

そう思い当たって目を見開くと同時に両肩をつかまれ、思いっきり容赦ない力で反転させられた。


「バカさくら!!!なにやってんだ!!」

「…は…や、と…?」


あまりに驚いたせいか、力のない声しか出なかったことに、自分でも驚く。

どう…して?

なんで?

なんでここに、隼人がいるの…?

どうして、こんなに必死な顔をしているの?


「どうして…」

「どうしてはこっちのセリフだ!!今、何をしようとしてた!?それになんなんだよ、この手紙!!」


目の前の隼人は、今までに見た事がないくらいに怒っている。

だけど、意味がわからない。

隼人は、私が嫌なんだよね?

私に消えて欲しいんだよね?

なのにどうして、そんなに怒ってるの?

どうして、止めたりしたの?

どうして…


「隼人、震えてる…の?」

「………っ」


私がそう言った瞬間、痛いほどの力で思いっきり抱きしめられた。

抱きしめられると、余計に隼人の震えが伝わって来る。


「…いなくなったりすんなよ…」

「…え?」

「俺の前から消えようとすんな。死のうとすんな」

「………。」


どういう、こと?


「…さようなら、なんて…書くなよ…」

「はや…と…?」


さっきとは全然違う、力のない、懇願するような震えた声。


「頼むから…俺の前から、いなくなったりすんなよ…!」

「………っ!」


そう、苦しそうな声で言われた瞬間、涙があふれて止まらなくなった。

「どうして」とか、そんな疑問はもうどこかに飛んでいってしまった。

ただ、隼人のあたたかい、力強い腕に抱きしめられている事実が信じられなくて。


「私…いらないんじゃないの?消えて欲しいんじゃないの?」

「は…?なんだよ、それ…」

「だって、隼人言ってたじゃない。『さくら、早く死なねぇかな』って」

「…はぁっ!?俺が、そんなこと言うわけないだろ」

「で、でも私聞いたよ?」

「俺は絶対に言ってない」

「…え?じゃあ…」

「…………誰の仕業だよ。さくらにこんな事させようとしたの」


…隼人の、声が。

すっごい怒ってる。

怒りを向けられてるのは私じゃないのに…すごく怖い。


「「こいつだよっ!!」」

「え…っ?」


少し離れた所で、ものすごく不機嫌な、よく聞きなれている声がした。

驚いてその声のほうを見ると…


「斎、神門…と、神流かんな…?」

「そう!!こいつが犯人!隼人に化けてこんな事したんだよ!!」

「え…?」

神流が?

神流っていうのは、猫又の男の子。

いろんな物に化ける事ができるの。

なぜか私にすっごく懐いてて、逆に隼人を敵対視してる。


「なんで…」

「こうでもしたら、さくらはソイツと別れてくれるかな…って、思って…その」


目線が思いっきり泳いでいる。

語尾がだんだん小さくなっていって、ものすごく焦ってるのが手に取るようにわかる。

不穏な気配を察知したのか、逃げ出そうともがいているけれど斎と神門に両側からがっちり掴まれていて逃げ出せない。

私は隼人の腕から抜け出して、神流にゆっくり近づいた。


「…神流?」

「ひぃっ!!ご、ごめんなさいっ!!」

「神流、やっていいことと悪い事があるよね?」

「は、はいっ!」

「…私、簡単には許さないから」

「……っ!!」


静かな声で少し微笑みながら言う。

神流の顔が恐怖にひきつっているけど、そんなの知らない。

私がどれだけ苦しんだか、わかる?

どれだけ悲しんだか、わかる?

私の感じた辛さを、そう簡単には忘れる事なんてできないんだから。

だから、私のこの怒りが収まるまで、すこーし、我慢してね?

そう言って小首をかしげて再び微笑むと、神流はビシッと音を立てて固まった。


「…さくらの黒笑って、マジで怖いよな…」

「…へ?なんか言った?」

「いや、何も」


背後で隼人がなにか呟いていたけど、よく聞こえなかった。

なんだったんだろう?

隼人をじっと見つめていると、座り込んでいた隼人は、「よいしょ」と立ち上がった。

そして、まっすぐ神流のもとに歩いて行く。

…なにをするつもり?


「神流」

「…なんだよ。俺はおまえなんか認めてねーぞ」

「そうだろうな。じゃないと、こんなことしねぇよな」

「………そ、そうだよ」

「…でも」


そこで一旦言葉を区切った隼人が、神流の首元の服を持ってグイッと引き寄せた。

そして、これでもかというくらいに睨みつけて、めちゃくちゃ低い声を出す。


「今回は助かったけど…もし、今後さくらに何かあったら。その時は、俺はお前をぜってー許さないから。何をしてでもお前を殺してやるよ」

「で、出来る訳ないだろ」

「本当に、そう思うか?」

「な、」

「覚えておけよ。さくらがもしも消えたりしたら。敵になるのは、俺だけじゃないってことを」

「………っ!!!」


そう言い放った後、隼人は神流を突き飛ばすようにして解放した。

…さっきは穏やかな口調に戻ってたから、もう怒ってないのかと思ってたけど…

やっぱりお怒りだったのね。

ていうか、ほんっとうに怖いんですけど!

出来る事なら、一生あの怒りの矛先は向けられたくない。

もともとの顔が良いから、睨むと相当迫力があるんだよね…。

しかもなんか隼人の後ろに真っ黒いオーラが見えるし。

…恐ろしや。

一番怒らせたらいけないのって、絶対に隼人だよ。

それに…人間界…と、いうか経済界でもしも隼人を怒らせたりしたら、勝てる人なんてほとんどいない。

なんせ、鳴海製薬なるみせいやくのおぼっちゃまですからね。

…本当に、いろんな意味で怖い人だな。

なのに…普段は優しくて、ちょっとイジワルな時もあるけど、なによりあたたかい人なんだよね。

あの言葉が…隼人の本心じゃなくてよかった。


「隼人」

「ん?」

「だーい好き!…だよ?」

「………っ!!////」

「これからも、ずっとそばにいてね?」

「…ああ。絶対に離してなんかやらねぇから」


そう言ってニヤリと笑った隼人。

辛かったけど。

悲しかったけど。

苦しかったけど。

彼のために消えようとしたことも。

今、ここにいて彼を見上げている事も。

なにより、この先の未来に隼人がずっといてくれますように、って祈ってる事も。

全部全部。


隼人が大好きだから。


…なんだよね。

だから。


「ずっと…離さないでね?」


―――チュッ


「………っ!!!////」


大好きな隼人の頬に小さなキスを落として。

私は彼を見上げ、微笑むのでした。





―――その後、約一ヶ月間、神流の苦しみの日々が続いた…なんてことは、また別のお話。


*END*

やり過ぎはいけません(笑)

と、いうことで。

一応、のいちごさんのほうでも長編として書こうかな…とは思っているのですが。

本当に執筆開始となるかはまだ未定です。

応援メッセージなどを頂けると、おそらく張り切って書き始めるだろうと思います(笑)。


最後までお読みくださってありがとうございました。

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