第7話 槍使いは、俺の帰り道を買いました
調査の同行者は、銀の槍を持った女性だった。
赤茶の髪を一つに結び、俺の少し上から、まっすぐこちらを見る。
「セナ。二十一歳、白銀級。あなたがノア?」
「そうです」
「敬語はいらない。同じ隊で動く人同士だから」
俺は、少し戸惑った。
白銀級といえば、ガレスと同じだ。
彼には、いつも隊長と呼ぶよう言われていた。
セナは、カランの前へしゃがんだ。
「助けてくれたんだってね。私にも、一緒に行っていい?」
手は、蓋に触れない。
カランは一度俺を見てから、足を出した。
彼女の靴の先へ、ちょん、と。
「よろしく」
セナは笑った。
箱が、少しだけ前へ跳ねた。
打合せには、地図があった。
俺が記した曲がり角の板を、セナは丁寧に写した。
「今回は、何を見れば帰る?」
「星空の部屋と、出入口を確認する。奥へは進まない」
「賛成。帰還の時刻と、荷物の配分を決めよう」
俺は初めて、出発前に帰るための話をした。
ガレスの隊では、十分な獲物が取れるまで、が終了の合図だった。
セナは縄、水、食糧、油を一覧にした。
「あなたの収納に余裕があるのはわかった。でも、私も水と薬は持つ。分かれたとき、あなたにしか物がないのは困る」
当然の話だ。
俺は、そんな当然を聞けることがうれしかった。
報酬は調査の同行費に加え、帰りの道を使う対価がついた。
数字を見て、俺は聞き返した。
「剣も振れないのに、こんなに?」
「迷宮の奥へ行っても、生きて帰らなきゃ報酬は使えない。帰れる道なら、私は払う」
彼女は金額を変えなかった。
荷物を持つことを、戦闘の邪魔になる作業として見ていない。
一層では、若い探索者がゴブリンに追われていた。
セナは槍を構え、俺へ短く言った。
「左へ寄って、灯りを」
俺は従った。
彼女が敵を止め、俺が灯り石を出す。
逃げてきた二人には、水を渡した。
カランは、背後から回り込む一匹へ跳び、盾を蓋で挟んだ。
槍が、隙間を通った。
短い戦いだった。
セナは槍の先を拭きながら、俺へ向き直った。
「今の、水を出すのも速かった。助かったよ」
俺は、返事を少し遅らせた。
耳へ、その言葉をちゃんと残したかったからだ。
二番の札の前で、扉を開いた。
カランが星を光らせ、セナが中を見た。
「……本当に、部屋なんだ」
彼女の声が細くなった。
棚の一つにある、赤い紐の腕輪を見ていた。




