第5話 最初の出口は、一緒に歩いて探します
便利な扉ができた。
だからといって、地上へいきなり帰れるわけではなかった。
部屋の壁へ手を当てて、入口へ出たい、と願った。
何も起きない。
札を貼った通路だけは、開く。
カランは俺の足をたたき、残る七枚の札を押した。
自分で、外へ持っていく必要があるらしい。
「なら、まず歩くか」
俺は箱を背負った。
水と食糧は収納へ戻す。広間にあった物には、手をつけない。
落ちた靴だけは、自分で拾った品として記録し、台へ残した。
通路は、上へ向かっていた。
水の跡と、空気の流れ。足跡があれば、どちらへ続くかを見る。
俺は薄い板へ、炭で曲がった順を記した。
カランは、石のくぼみで止まった。
床の色が、周りより淡い。
投げた小石が沈むと、壁から細い矢が飛んだ。
「助かった」
俺の声に、蓋が少し持ち上がる。
ずっとここへいた箱には、俺より見えるものが多かった。
昼か夜かわからない休憩を、二度取った。
灯り石を替え、水を飲む。
怪我をした掌へ、革帯が食い込む。
途中でカランが、自分で歩きたいと帯を引いた。
下ろすと、箱は短い足で先へ進んだ。
速くはないが、俺の休憩にはちょうどよかった。
やがて、知っている柱が見えた。
第二層の東側。
何度かガレスたちと通った場所だった。
俺は、思わず柱へ額をつけた。
戻れる。
ここからなら、道がわかる。
最後の階段を上がる前に、一層の壁へ札を貼った。
番号は二。
人のよく歩く広場の隅だ。足場も、壁も、崩れていない。
触れると、カランの金具が光った。
箱が外にいても、扉を支えられる。
開いた先には、あの星空の広間。
中へ入って、最初に貼った札を思い浮かべた。
壁の向こうに、深い通路が開いた。
次に、二番の札を選ぶ。
目の前が、一層の広場へ変わった。
ここまで来た道を、もう一度全部歩く必要はなかった。
ただし、行ったことのない場所へは出られない。
「帰り道を、残せるんだ」
俺は二番の札を確かめた。
釘はしっかり刺さっている。
剥がれれば、帰れなくなるかもしれない。番号と位置を、板へ書き足した。
階段を上がった。
風が、頬へ当たる。
本物の空は、夕方だった。
外へ札を置いてみたが、刻印は光らなかった。
この道は、迷宮の中だけのものらしい。
俺は札をしまい、カランを抱えた。
地上までは、自分の足で帰る。
入口の見張りが俺を見つけ、槍を落としかけた。
「ノア? 金獅子の隊長は、おまえが……」
続きは、聞く前にわかった。
俺は箱を抱え直した。
「帰った。報告したいことがある」
カランが、俺の腕の中で、こつんと蓋を鳴らした。
今度は、そばにいる音だった。




