第23話 次は、あなたと地図の外へ行きたい
カランが走れるようになるまで、俺たちは街の仕事をした。
地上でなくした道具を探す。
宿へ荷物を届ける。
帰還庫の品の名前を、待っている人へ確かめる。
扉が開かない日にも、できることはあった。
トーリは、古い文字の報告をまとめた。
俺の掌の適性だけでは、ほかの帰還庫を開けられるかはわからない。
その点も、彼は正直に書いた。
「まだわからない」が残る報告書でも、役に立つ。
俺たちは、それを使って次の調査を決めた。
ある休日、セナが川沿いへ誘った。
今日は槍を持たず、薄い上着を着ている。
俺も収納へ荷物をほとんど入れなかった。
カランはトーリと、ギルドの庭で日向ぼっこをしていた。
橋の上で、セナが足を止めた。
「父を探す仕事は、終わったんだよね」
俺はうなずいた。
終わったという言葉は、すぐには言いにくかった。
でも、彼女自身が、そう言っていた。
「これから何をしたいか、ずっと考えてた」
彼女は川の下流を見た。
町の外へ、水が流れていく。
「海を見たい。父が持ち帰った貝しか、見たことがないから」
俺は、息を吸った。
地図の外へ行きたいと思って、冒険者になった。
荷物を運ぶうちに、行き先はいつもガレスが決めるものになっていた。
今、目の前の人が、行ってみたい場所を話している。
「俺も、行きたい」
セナが笑った。
それから、少し黙った。
「でも、隊の予定だけじゃなくて、ノアを誘いたかったんだ」
俺は彼女を見た。
風で、赤茶の髪が頬へかかっている。
彼女はそれを耳へ寄せ、俺の返事を待った。
「君と、二人で歩く時間が好き。帰ってから、同じ卓へ地図を広げるのも」
胸の中が、妙に熱くなった。
俺は、言葉を探すのをやめた。
「俺も、セナが好きだ」
言った後、橋の欄干をつかみかけた。
握るところを間違えたと思うほど、手が落ち着かなかった。
セナは、笑いながら自分の手を出した。
「そっちより、こっちにして」
俺は、その手を取った。
槍を持つ掌は、俺と同じように少し硬かった。
「帰る道は、ちゃんと考える」
「うん。でも、海は迷宮じゃないから、扉は使えないね」
「普通に、往復しよう」
それが、楽しそうに聞こえた。
帰り道が短いことだけが、旅のよさではなかった。
宿へ戻ると、カランが玄関で待っていた。
つないだ手を見て、片足を上げる。
俺が箱を抱えると、その足はセナの肩へ載った。
トーリが、後ろから笑った。
「海へ行くなら、留守番は先に相談してよ」
俺たちは次の休日を決めた。
今度は、どこへ行きたいかを、三人と一箱で話した。




