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第24話 捨てられた宝箱と、拾い直した人生

一年後、ギルドの窓口には、新しい札が掛かっていた。


――迷宮の忘れ物。帰還の相談。


俺は二十歳になった。

セナは二十二歳。トーリは新しい杖を買い、古い杖も捨てずに持っている。


カランの蓋には、底喰いの歯の跡が薄く残った。

もう、力なく横になることは少ない。

俺が朝、帯を持つと、自分から前足を通す。


最初に拾った、片方の靴の持ち主も見つかった。

若い頃に迷宮で落としたという、街の靴職人だった。

底の縫い直しの形を見て、妻が針を間違えた跡だ、と笑った。


新しい靴を、あの古い片方と交換するように渡してくれた。

俺は今、その靴で歩いている。


帰還庫の棚は、少しずつ空いていく。

全部の宛先がわかったわけではない。

読めない札も、待っている人の見つからない品もある。

それは勝手に売らず、記録を残して待つことにした。


広間の椅子は四つになった。

床の一角には、母さんが縫った箱用の敷物。

カランは、いつも椅子ではなく、そちらへ座る。


海への旅行にも行った。

迷宮の外では扉が使えないから、馬車で出かけ、宿へ泊まった。

セナは拾った貝を母親へ贈り、俺は少しだけ余計に日を取り、波の音を聞いた。


前世では、いつも荷物の宛先へ着くことを考えていた。

今は、途中で何を見たいかも、一緒に話せる。


今日、俺たちは第七層までの安全確認を終えて帰った。

扉札は、相変わらず八枚。

使う場所を変えるときは、先に記録を書き直す。

収納も、八枠、八十キロのままだ。


それでも、帰れる人は増えた。

腕輪を戻した娘。

道具を取り戻した採取員。

怖くなったことを口にして、早めに引き返せた若い冒険者。


入口の階段で、カランが俺の帯を引いた。


「歩きたいのか」


箱を下ろすと、四本の足で階段を上がった。

一段ずつ。急がず。

俺とセナも、その速さに合わせた。


地上へ出ると、本物の夕日が見えた。

トーリが報告板をしまい、腹が減った、と言った。


セナが俺を見た。


「ノア。明日から長い休みだね。どこへ行く?」


俺は少し考え、答えた。


「母さんたちのところ。新しい机が届いたから、見てこよう」


カランが、からんと鍵を鳴らした。

何かを返す日ではなくても、一緒に帰るつもりらしい。


かつて俺を必要ないと呼んだ隊は、もうない。

俺の仕事も、居場所も、あの日の石棚には残っていなかった。


隣に、手をつなぐ人がいる。

少し後ろに、地図を広げる友人がいる。

足元に、誰も置いていかない宝箱がいる。


俺はカランを抱き上げた。


宝物を拾ったのだと思っていた。

今は、この箱と一緒に歩くことそのものを、俺の選んだ冒険だと呼んでいる。


「帰ろう、相棒」


蓋が、一度鳴った。


今度は、俺にもわかる返事だった。


完

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