第22話 荷物持ちの仕事には、帰還まで含まれます
目を覚ますと、隣の床へカランがいた。
木の殻には、歯の跡が残っている。
蓋の星は、薄い。
俺が手を伸ばすと、短い足が、指へ載った。
「おはよう」
こつん。
昨日まで使っていなかった挨拶を、俺たちは交わした。
ギルドの療養室へ、セナとトーリが来た。
セナは腕を吊っている。
トーリは杖の先が空になっていた。
「全員、帰ったよ」
セナの最初の言葉だった。
俺はようやく、背中を寝台へ戻した。
封域は、専門の確認隊が調べることになった。
俺たちの判断だけで永久に安全と言えるものではない。
ただ、底喰いの動きは止まり、街への影響も出ていなかった。
ガレスは、地上で衛兵へ引き渡された。
禁じられた区域へ入り、境界の鎖を壊したこと。
隊員を見捨て、報告を偽ったこと。
剥がした札も、預かった留め具も、証言と一緒に記録された。
冒険資格の取消しは、数週間後に確定した。
損害への責任も問われ、彼が白銀級の隊を率いることはなくなった。
バントにも処分があり、自分の判断で同行した責任は消えなかった。
フィオは停職の後、街の補助魔術の研修へ進んだ。
入口で避難者へ灯りを出したことを、セナから聞いた。
謝罪の言葉より先に、その行動を覚えておこうと思った。
俺が歩けるようになると、イゼルさんが依頼書を持ってきた。
「今後、帰還庫を使う回収と救助の窓口を作りたい。君たちに、契約をお願いできるか」
俺は内容を読んだ。
調査と保守の費用。救助に入る条件。カランが休む期間。
扉を使えば必ず助かる、という説明をしないこと。
俺たちだけへ、全部の救助を押しつけないこと。
カランの傷は、休みながら少しずつ戻っていた。
金具に見えたところまで、魔物の体の一部なのだ。
職人が釘を打って直すものではない。
俺は欠けた角へ布を当て、帯が触れないようにした。
「受けたいです。仲間と、話してから」
セナとトーリは、もう隣にいた。
二人とも、そう答えるのを待っていたように笑った。
契約の職務欄へ、俺は「荷物持ち」と書きかけた。
イゼルさんが、隣に別の名を示した。
帰還士。
物を運び、人が帰る道を残す仕事。
昔の記録へあった呼び名を、今の冒険者の役目として認めるのだという。
俺は、新しい字をゆっくり書いた。
荷物を運ぶだけ、と言われた力は、そのままだ。
八枠、八十キロ。
でも、それを一緒に使う人と、帰る場所が変わった。
カランが、契約書の横へ足を置いた。
その形も、印として記録してもらった。




