第15話 十二年遅れて、お父さんは帰りました
セナの母親は、庭で洗濯物を取り込んでいた。
俺たちは、ギルドで身元を確認してもらってから、郊外の家を訪ねた。
トーリは記録を預ける役として、一緒に来た。
セナは戸口で、いつもの帰還の挨拶をした。
「ただいま」
母親が振り返る。
包みと、娘の顔を見た。
「……お父さん?」
セナがうなずいた。
その後は、二人とも、しばらく何も言わなかった。
俺とトーリは、外の長椅子で待った。
カランは二人の靴の間に座り、蓋を開けなかった。
やがてセナが、扉を少し開いた。
「入って。母が、お礼を言いたいって」
茶を頂き、手紙があった場所と、回収した品について話した。
俺は最後の瞬間を見た人ではない。
記録からわかったことを、わかった範囲だけ伝えた。
セナの母親は、腕輪を両手で持った。
「これを作った日、紐が長すぎたの。セナに引っ張られるから、短くしたんだった」
彼女が話す父親は、回廊の記録にあった探索者とは少し違った。
娘の靴の左右を間違える人。
朝になると、必ず窓を開ける人。
祭りへ帰ると、毎回、約束する人。
セナは、泣きながら少し笑った。
俺は、卓の上の腕輪を見た。
物だけが届いたのではなかった。
その人を覚えている言葉が、家の中へ戻っていた。
庭を出る前、セナが俺へ声をかけた。
「今日は、槍を持っていない私でも、迷惑じゃなかった?」
俺は首を振った。
「当たり前だろ。俺だって、戦わないで水を飲む日がある」
彼女は、一度目を伏せた。
「ありがとう。今まで、止まったら探せなくなる気がしてた」
母親の家へ、もう一晩残ることになった。
俺とトーリは宿へ帰る。次の探索を、急いで決めはしなかった。
帰還庫へある品のことは、ギルドの窓口で扱い始めていた。
宛先が読めたものは、記録と照合する。
待つ人がいれば知らせ、見つからなければ、そのまま保管する。
金貨になりそうなものから順に持ち出すことはしなかった。
初めて届いた礼状には、古い手袋を受け取ったという男性の字があった。
母の針仕事だった、と。
俺は礼状をカランへ見せた。
箱は紙をかじらず、蓋の上へそっと載せた。
その夜、宿へ母さんからも返事が来た。
――帰っているなら、まず顔を見せなさい。
箱の相棒がいるなら、帯の縫い目も見たいです。
俺は笑った。
届ける仕事を増やす前に、自分も一度、帰ろうと思った。




