第13話 帰還庫は、宝物より古いものを守っていました
広間の名前が、わかった。
《帰還庫》。
トーリが、入口の柱へ残る字を読み上げた。
古い迷宮では、探索者が物を預け、離れた場所から戻るために使っていたという。
「忘れ物を集めるだけじゃない。疲れた人が休み、戻る準備をする場所だったんだ」
俺は、初日に座った椅子を見た。
埃を拭いた後、セナが座面の破れへ布を当てていた。
卓には、今は三人分の杯がある。
ずっと使われていなかった部屋に、人のいる形が戻っていた。
棚へ保存された品には、最後に預けた人や確認された場所の記録があった。
全部にあるわけではなく、傷んで読めないものも多い。
セナの父の腕輪が読めたのは、運のよいことだった。
持ち主が戻らなかった品は、待つ人へ渡してよい。
その古い決まりを読み、セナは腕輪を改めて鞄へしまった。
俺が、金貨だけを取り出す人だったら、カランはどうしたのだろう。
棚の剣へ手を伸ばさずにいた理由を、この箱は覚えているのかもしれない。
奥の壁には、別の記録があった。
下層の空間を荒らす魔物。
帰還路を壊すもの。
《底喰い》。
トーリの声が、少し低くなった。
「この部屋自体も、絶対に安全ではない。迷宮の空間とつながっている。大きく壊れると、内側も狭くなると書いてある」
カランが、星のある蓋を俺へ向けた。
金具の端には、深い傷があった。
昔、何かからこの部屋を守った跡だろうか。
イゼルさんへ報告した。
第七層北回廊の調査は許可されたが、その奥の封域には入らない。
底喰いの記録を、ほかの探索者にも知らせる。
俺たちは条件を確認し、地図の奥へ赤い線を引いた。
カランの扱いも、変わった。
調査協力魔物として、ギルドの登録札が出た。
通行できる建物、休める場所。街の人が箱を勝手に開けないよう、注意書きも作る。
「使役者」の欄へ名前を書こうとした俺を、イゼルさんが止めた。
「今の関係なら、同行者の欄でいい」
俺は、そちらへノア・リードと書いた。
カランの札は、帯の横へ付けた。
箱はしばらく、それを見つめていた。
それから、俺の掌へ顔のない蓋を寄せる。
「これで、堂々と宿へ泊まれる」
こつん、と返事があった。
俺は帰還庫の卓へ、次の探索の地図を広げた。
帰る場所があるから、もう少し先へ行ってみたい。
初めて、そう思えた。




