化物との邂逅 2
目が覚めると、知らない天井。よくある展開であるが、物語において矛盾無く舞台を移動させることが出来るので、使い勝手が良いだろう。知らない天井と言えば、病院の個室や廃屋の一室などが定番だろうが、敢えて読者の想定を超える場所にしても良い。
とまぁ、散々御託を並べてみたが、僕の場合はそれに当てはまらなかったらしい。目を覚まして、初めて目に付いたのは見慣れた光景。とは言っても、自宅や学校に居た訳でもない。
薄雲の流れる夜空。満月の光に当てられて、無数の星が輝いていた。
僕はどうやら、道端で眠っていたらしい。
チクリと、首筋が痛む。まるで、針に刺された様な感覚だ。
「あら、目が覚めたのね。」
物静かで優しい声。当時の僕にとっては、聴き馴染みのない女性の声だった。
「ごめんなさい。本当は屋内に寝かせてあげたかったのだけど。貴方が思いの外、早く目覚めたものだから……。」
通学路の隅で横になっている僕の側には、つい先程まで僕の首に手を掛けていた相手がいた。
節々が痛む身体を起こし、声のする方に目を向ける。
「こ……み……」
名前を呼ぼうとしたが、喉に痛みが走りそれどころでは無かった。
「あぁ、無理に話さなくて良いわ。多分、喉を潰しちゃったから。馴染んできたら、直ぐに治ると思う。」
妓詠は申し訳なさそうな態度を見せる。
仕損じた。と、そんな感じでもなさそうだ。どちらかと言えば意図していなかったとでも言いたげに見える。
「取り敢えず、場所を変えても良いかしら。学生がこんな時間に居ても変だし。」
返事を待たずに、彼女は僕の身体を担ぎ上げる。
細い腕だ。今時の女子高校生というのは、同年代の人間ひとりくらいであれば、軽々と持ち上げるものなのだろうか。
「口、閉じてね。舌噛むかも知れないから。まぁ、噛んだところで直ぐに治るんだけどね。」
その言葉を聞き終えた直後、僕の身体に強い衝撃が走った。
例えるなら、ジェットコースターが降り始める瞬間だろうか。ガクリと身体が揺れたかと思えば、強い重力と風圧に押し潰されそうになる。僕は驚きのあまり、思わず目を閉じてしまった。
恐る恐る目を開くと、街灯と家の明かり、ビルやスーパーの光に照らされた街の夜景が広がっている。
彼女は僕を抱きかかえて、星空の中を駆けていた。
「良い眺めでしょう。」
独り言の様に、彼女は呟く。
何か言葉を返したかったが、状況からして口を開くのも難しい。
「何も話さなくて良いわよ。もう直ぐ着くから。」
彼女の優しい声に、僕は黙って頷くことしか出来なかった。




