信仰と信頼と 1
星河先輩との約束の為、再び学校に来たのは、二十時を数分過ぎた頃だった。
私立青代高校には複数の運動部が存在しているが、十九時半頃には解散してしまっている。教師陣も退勤しているので、今の時間帯は完全に無人の学校だ。
家と高校が近い事もあり、散歩がてら夜中に高校の前まで来ることも多かった。その為校門が閉まる時間や、運動の活動時間など大体把握出来ているのだ。夜間がメインの身体になってしまったので、これからもこの情報は活用していくことだろう。
当たり前の事だが、正門は閉まっている。手動の扉であり鍵も掛かっているのだが、化物からすれば大した問題ではないだろう。
思考を行動に移す前に、さりげなく周囲を見渡す。吸血鬼になってから、視聴覚が格段に向上した気がする。通学路の道なりから曲がり角の隅まで見通し、人影が無い事を確認する。耳を澄ませば、風の音や数十メートル先まで、足音がない事を知れる。
周囲に人はいない。例えいたとしても、街灯の当たらない場所では性別の判断さえ困難だろうが、念の為の確認である。
「よし。行こう。」
ひとりでそう呟き、アスファルトを軽く蹴る。
僕の身体は二メートル程宙に浮かび、緩やかな軌道で敷地内に降り立った。いやはや、吸血鬼の身体能力様々である。
正面限界前の駐車場を横切る時、ふと思い立った。学校を提案したのは良いが、先輩はどの様にして敷地内に入って来るのだろうか。
普通の人間であれば、百五十センチ程ある柵を飛び越えようとはしないだろう。僕が知らないだけで、常に解放されている裏口でもあったりするのだろうか。そんな事を考えている内に、校庭に辿り着いていた。
誰もいない夜の校庭。何かある訳でもなく生暖かい風が弱々しく吹くばかり。
つい数十分前まで部活動に励む学生達で騒がしかったのであろうこの場所も、使用者が居ない時間帯は校庭そのものが沈黙してしまっている様に思えた。
物言わずに、名前も知らない誰かの到来を待っている校庭。その風景に、僕は胸の内で郷愁にも似た寂しさを抱いてしまう。
つい先日、僕はこの場所で奇妙な体験をした。化物の同級生と新たな友人。正に、一生に一度の事だった。
不知火は、何をしているのだろう。僕は月を覆い隠す雲を眺めながら、友人の行方に想いを馳せていた。




