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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.4

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襲撃-2


「アヤナ! 牽制と援護だけやれ! 突っ込むなよ!」



「ウェイン、分かってるわ!」

 現在ウェイン隊は全員ほぼ丸腰。フェイは『ボーパルバニー』を取りに行っているが、まだ戻れていない。この状況で少しでもアリス隊を援護するなら、少し前に展開した方が良い。この状態で早く前に出て、そして早く戻ってこれるのは理想でもある。

 もし押し上げて場所が確保されたなら、残りのウェイン隊も上がれる。ウェインとエルの魔法なら、とても遠くまでとても強い援護ができる。

 アヤナの部下と言う馬上の二人の女性の力は分からなかったが、アヤナが信頼しているのだ。問題ないと判断した。


 正面、悪魔達は暴れている。多数は獣のような形を取っていたが、中には人のような形を取るものもいる。

 先ほどは全て、ガスのように不定形だったり、あるいは良く分からない形をしていた。色々と変化するのかもしれない。

 そこらへんはウェインにも分からない。悪魔に対しては、ただ盲目的に『倒せ』と言われているので普段はそうしているだけだし。今は攻撃されているので防御態勢を取っているだけだ。

 破壊の魔法や咆吼を撒き散らす悪魔達。

 アスリー師匠が

「ふぅん……」

 と、意外にも、かなり落ち着いた声を出していた。


 その時。『ボーパルバニー』を抱えたフェイが小走りでこちらに来る。

「先輩、合流しました!」

「ありがたい!」

「あと、手近にあったショートソードを拾ってきました! 使って下さい!」

 現状、白兵ができるのは誰もいなかったのだ。ディアやタニアなら、そこらでショートソードを調達してから白兵戦もできただろうが。フェイが持ってきてくれたので時間短縮になる。

 戦力としてのフェイなら前に出るのも簡単で心配もないし、その『ボーパルバニー』は巨大な魔法と化して悪魔達を薙ぎ払ってくれるはずだ。

 しかし、それでもフェイを単騎で前に出すのもよろしくないと思った。彼女のサポート役に、連携できる誰かが欲しい。サポート役なら当然ディアであるが……。

 一瞬悩んだ時、近くにいたアルテナ大尉が言った。横にいた少尉に声をかける。

「マリア少尉、宿舎からウェイン隊の装備を取ってきて! ウェイン中尉とタニア様、それとディア上等兵の分だけでいいわ!」

「了解です!」

「あと少尉、アナタのショートソード貸して! その後は伝令と索敵支援に回って!」

「はっ!」

「ごめんなさいね、マリア少尉!」

 その、マリアと言う少尉は律儀に敬礼してから宿舎へと踵を返す。ウェイン達の装備を取ってきてくれるようだ。アルテナ大尉はウェインに、マリア少尉のショートソードを渡す。これで隊のショートソードは二本。そのままディアとタニアに渡した。

 他のメンバーは、そもそも魔法主体なので武術はたいしたことがない。『白兵戦も強い』と評価されるウェインですら、たいしたことがないのだ。あくまで『魔法と絡めて』の戦いが上手いだけであって、純粋な剣術のテクニカルな意味では日頃から訓練している人間の方が当然強い。


 ここでフェイを前に出して、彼女をディアがサポートしたならば。正面を、後ろから押せる。フェイの『ボーパルバニー』は強力な魔法剣だ。アレの威力があればアリス隊をかなり支援できるはず。


 悪魔の群れの破壊の魔法が乱射される。

 轟音。

 アリス隊の少尉達は必死で防いでいた。

「ホールド、ホールド!」

「支援魔法、撃ち込んで!」

「こっち増援お願い!」

「そっちカバー!」

 防いでいるが……やはり、彼女らは白兵はショートソードだけなので分が悪い。隊として槍や盾はあるだろうが、そもそもの数が少ないのだ。

 そしてアリス隊は、『敵に抜かせないこと』をメインの戦い方をする部隊。暗殺や奇襲などの攻撃に対して備えるSPである。もともと個々人の攻撃能力は高くない。何故なら『その場で足止めしていれば、援軍が来る』と言うことを前提としているからだ。


 するとその時、ソフィアが声を出した。

「アルテナ大尉! 私もあそこに!」

 アルテナ大尉は肯いた。

「ソフィア特務伍長、許可します。お願い!」

 ソフィアは肯いてから白馬の方へ小走りで走っていき……そのまま大声を出す。

「ソフィアです! フィンガーバレット、こっち2つだけ!」

 すると緑髪の女性が、小さな小石のようなものをソフィアにトスする。そして軽く叫んだ。

「ルビィ、ソフィに融通して。多めに!」

 薄い赤毛の少女が、馬上から小石のようなものをソフィア特務伍長に手渡す。ソフィアは大声で言った。

「バレット合計6発! 私も行けます!」

 ソフィアは身軽に、もう一頭の白馬に飛び乗った。アヤナの方を向いて言う。

「アヤナ様、こっち三人、全員行けます!」


 アヤナは肯く。

「ん! 全員、準備して!」

 アヤナは黒い愛馬『らっちゃん』に飛び乗った。

「アヤナ様、コレを!」

 従者のチアリが豪華な槍を差し出した。アヤナは馬上でそれを受け取る。

 ウェインは驚いた。アヤナが槍を使えるとは聞いていなかった。

「アヤナ、お前、槍を使えるのか!?」

 だがアヤナは軽く手を振る。

「あんまり使えない! 飾りよ飾り! 気分よ気分!」

 テキトーな感じだが、しかし彼女の見た目だけならとても綺麗で強そうだ。

 その間も、三頭の白馬にそれぞれ武器が積まれていった。訓練中だったので装備は外していたはずだ。

 騎上の三人、フル装備ではないようだが、ある程度の武器が揃ったようだ。

 緑髪の女性は、少し迷ってから……短い緑色のマントを外した。それを投げ捨てる。一方のピンク色の髪の少女は赤いマントを着けたまま……と言うか、先ほど慌てて着けてたはずだ。戦術的な何かがあるのかもしれない。


 そしてアヤナが少し前に出て……彼女を挟むように、左側には緑の髪の女性。右側にソフィア。アヤナの後ろに薄い赤い髪の少女。それぞれ配置に着いた。

 彼女らは手慣れている感じがある。実戦でか訓練でかは分からないが、恐らく以前も何度かチームを組んだことがあるのだろう。


 アヤナは片手を上げる。

「みんな、行くわよ!」

 そのまま少し前に出て……馬を止めて。槍を掲げる。それから大きな声を出した。


「『トライデント』、出ます! 今からアリス隊を援護するわ! みんな、その場で持ちこたえて!」


 アヤナの声はとても綺麗で、そして戦場ではよく通る。

 余裕がある隊員たちが少しだけアヤナの方を見た時。彼女らは四騎の馬を見て、顔を明るくして声を上げ始め……


 そこでアヤナは。持っている槍に気流を流した。

 槍が発光する。

 吹き上がるような蒼い炎。

 その神秘的な光景に、全員が、わあっと盛り上がる。


 ……ここらへん、アヤナは大抵の場合、意識しているわけではないようだ。しかしテキトーにやる動作や仕草が何故かポジティブに伝播し、周囲を力づける。

 周囲のアリス隊が力強い声を上げ始めた。次第に連鎖される。


「アヤナ様!」

「アヤナ様!」

「アヤナ姫!」

「アヤナ姫!」

「『トライデント』!」

「『トライデント』!」

「アヤナ様のもとに、また『トライデント』が集まったわ! みんな、この戦い勝てるわよ!」

「アヤナ!」

「アヤナ!」


「……なに、この盛り上がり」

 『トライデント』とは恐らくチーム名だろうけど。『また』集まった、と声が聞こえた。やはり以前にも集まったことがあるのだろう。手慣れている感じから見ても。

 タニアが呟く。

「『トライデント』って、この人たちか……」

 モニカがその眼をタニアに合わせた。

「『トライデント』って、何です?」

「三頭の白馬の女性チーム。式典での名前が売れてるけど、戦闘でも強い……と聞いたことがある。連携が凄いと言う話」

 ディアが、ふにゃっと呟いた。

「さっきの書記官は、その一員なん? 彼女、見栄えも良いね」


 そこでウェインの前に、一人のアリス隊員が小走りで近寄ってくる。先ほどアルテナ大尉に言われ、ウェインたちの装備をとりに行ってたマリア少尉だ。

 傍らにもう一人随伴しているので、恐らく二人で取りに行ってくれてたのであろう。

 そのマリア少尉は言う。

「ウェイン中尉! 皆様の装備を集めてきて参りました!」

 ウェインは軽く手を上げた。

「マリア少尉、ご苦労! 感謝する!」

 タニアの槍と盾、ショートソード。

 ディアのショートソード。

 それらはそのまま、二人が受け取った。これで二人とも、鎧はないが通常戦力と思われた。タニアも鎧の防御の代わりに速度を高めてるとも言えるので、やはり戦闘力は高いままのはず。

 そして騎乗のアヤナの方を向こうとすると……武器を持ってきてくれたマリア少尉が、まだこちらを見ていた。

「申し訳ありません、ウェイン中尉……」

「マリア少尉、どうしたか?」

「見つかりませんでした……」

「何がだ?」



「ウェイン様の剣『ボーパルマニューバー』が見つかりません!」



 一拍おいて。

 ウェインたちやアルテナ大尉が『あっ』……と小さく声を出した。

 ウェインはそのマリア少尉に、慌てて片手を振る。

「マリア少尉、問題ない! 私は魔法が専門だし、ショートソードもこっちで余っている! 少尉は配置に戻れ!」

 こちらのショートソードはフェイが持ってきたモノと、あとは目の前のこのマリア少尉が貸してくれたモノだ。合計2本、余った計算。

 ウェインはその1本を持ち、もう一本をアスリー師匠に渡す。

「俺はこれ使います! もう1本は師匠が持ってて下さい!」

「ん? 何でだ?」

「この中では師匠が一番、白兵できるでしょ」

「おうよ」

 実は。彼女がどれほど強いかは実感はなかったけれども。

 しかしアスリーは言う。

「でもウェイン。お前のその『まにゅーばぁ』? その剣、必要ないのか? お前が最終的に上がって白兵想定なら、その専用剣があった方がいいんじゃないか? どんな威力なのかは知らんが」

 そのアスリーの言葉にウェインが答える前に。後ろで索敵警戒をしていたエミア少尉が少し大きな声を出した。

「ウェイン中尉、私が持ってきます!」

 既にエミアが走る仕草を出していたので、ウェインは許可を出した。

「頼む、エミア少尉!」

 そう言ってから、アヤナの方に顔を向けた。その場の他の全員も、晴れやかなアヤナの隊に目を向ける。



 アヤナは黒馬『らっちゃん』の馬上で高揚していた。怖じ気づかないのは、彼女の長所の一つ。

「アヤナ、大丈夫そうか?」

「平気! えみちゃんの突破力、そふぃちゃんのサポート、るびちゃんの支援。皆は絶対に私を守ってくれる!」


 白馬に跨がった三人の女性は、それぞれ敬礼してきた。

「はっ。私は先陣を切り裂いてアヤナ様を守ります!」

「はっ。私はアヤナ様をサポートします!」

「はっ。私は後方支援して、敵をアヤナ様に近寄らせません!」


 その周囲には神聖な空気、神聖な雰囲気で包まれているような気がしたが……


 ウェインは呟いてしまった。

「……牽制目的をするアヤナの援護にしては、豪華すぎるかもしれん」

 アヤナは驚く。

「えっ!?」

 ディアも呟くように言う。

「って言うか。アヤナを置いて、そこの三人だけで前線のアリス隊の支援をすればいいんじゃね? アヤナを守る必要がなくなれば、そのぶん他を支援できるわけだし」


 やたら説得力がある一言。

 そのためか近くいた人間は、一瞬、言葉が出なくなった。


 前線の戦闘音や爆発音、怒号や悲鳴だけはよく聞こえる。

 だから、だろうか。

 近くにいたアリス隊の、さっきのマリア少尉が呟く声が、よく聞こえた。




「『世界の終末』……」

「ん……? マリア少尉、どうしたの?」

「いえ、アルテナ大尉。私は着任して間もないので、直接は目にしていなかったので驚きましたが……」

「続けて」


「ルビィ様って、ピンク色……赤い髪の毛なんですね」

「ええ、そうよ」

「先陣を切るのはエミィ様で、白馬に跨がり」

「そうね」

「馬の『ブラード』は黒い馬で、アヤナ様の髪の色もお美しい黒で」

「……」

「そして4人の『騎士』」

 アルテナ大尉は、少し笑うように答えた。

「そんなの。解釈次第どころか、こじつけよ」


 だがマリア少尉は、重く言う。

「しかしアルテナ大尉。ウェイン中尉の『攻撃魔法と封印魔法を組み合わせる技術』。それは……」

「あ。あぁ……。……」





 アルテナ大尉はアヤナたちの方を見て呟いた。

「確かに。ちょっと。縁起は悪い……かも」






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