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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.4

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襲撃-3


 『えみちゃんの突破力、そふぃちゃんのサポート、るびちゃんの支援』。これらはとても頼りになるとアヤナが保証していたが。

 『そんなに強いなら、そもそも三人だけで行けばよくね?』というディアの意見。


 それは……確かにそうだった。アヤナは魔法は使えるが、そこまで圧倒的だとか、そう言う人ではない。そもそも魔法学院には正規の入学ではなく『政治的にねじ込んで』入ってきた程度だ。ウェインの下で幾らかは実戦的なことはこなしてきたが。純粋な魔法使いだと計算するなら、例えば……ミュールの方が上だろう。彼女は魔法学院でも上位の成績で卒業しているのだから。

 それなら。

 ウェインは言った。

「ミュール中尉。中尉は馬に乗れるか?」

 アヤナではなく、魔法に優れているミュールを前に出してはどうかと思った。ミュールは答える。

「いえウェイン先任中尉。私は馬術の訓練はあまりされていません。歩かせる程度ならできますが、この戦いの中で馬を制御できるかどうかは難しいです」

 そう、そもそもアリス隊は馬術はたいして訓練していない。任務にはそこまで必要ではなかったし、自前の馬もない。だからこそアヤナの馬を借りて訓練しようとしていたほどなのだから。

 アヤナは大声で言う。

「大丈夫、『らっちゃん』は絶対に怯えない! 絶対に乗り手を落とさない! とっても賢いし、全部らっちゃんに任せてもいい!」

「しかし……」


 破壊の魔法。怒号、悲鳴。咆吼。

 正面、前。フェンスの入り口のところで激しい戦闘が行われていた。アリス隊たちは互いの魔法の援護は良いのだが、いかんせん白兵は厳しい。彼女らは正面で戦っては後ろに引き下がり、そして後ろにいた人間が前へ出て防戦する……と言ったローテで凌いでいる。

 『門』のところだけでなく、その横にあるフェンス越しにも戦闘範囲が拡大している。こちらは逆に、本格的な白兵戦にはなりにくいので持ちこたえていた。


 ウェインは少し考える。アルテナ大尉には『逃げて良い』と言われていたが、援護くらいならできそうなのだ。

 アスリー師匠を見る。

「師匠は? 馬、行けますか?」

 アスリーは多少は馬に乗れるとも聞いた。そして色々と慣れている(であろう)アスリーを前に出そうと思った。だがアスリー師匠は少し手を振って答える。

「そりゃ、やれと言われればやるけども」

「だったら! あの馬『らっちゃん』……ブラードは、相当優秀らしいです!」

「でも。あの門のとこ、私が前線近くに行ったってさ。そもそもアリス隊は魔法を使える人間も多いだろ? だったらアヤナも私も大差ない気がする。単純な戦力で言えば」

「まあ、確かに……」

「むしろアヤナを前に出した方が、士気は高くなると思うぞ」

 それも確かだった。しかしこの『トライデント』と言うチームは強力だそうだ。その戦闘力を余らせていても勿体ない。

 するとタニアが声を出した。

「なあウェイン」

「どうしたタニア?」

「戦術的なことを言えばさ。二つ、とても有効な案がある。提案したい」

「何だ?」

「一つ。私を前に出すこと。もう槍も盾も来た。鎧がない分、普段よりは大きく避ける必要が出てくるけど。でも白兵と言う意味なら戦力的に最も有効だと思う。クサビになれるから、フェイよりも私が適任だ」

「なるほど。もう一個は?」

「ウェイン、お前だ」

「ん?」

「ウェインだって少しなら馬は使えるんだろう? お前が前線に上がれば最も有効な援護ができる。それとウェインなら馬を使わなくても、途中で下りて、そこで援護し続けてもいい。さっき、自分が前に出るって言ってたし。馬は歩かせる程度でいいのなら」

「そっか。それもそうだな……」

 アヤナと目を合わせた。馬上のアヤナは肯く。

「代わる? 『らっちゃん』なら心配ないわ。ウェインは好かれてたし!」

 それは一つの、そして有効な案だと思った。戦力としてウェインが前に出て門の向こうにいる悪魔達に魔法を打ち込めれば……!

 あと残っている問題は。単純に、アリス隊全員の『士気』だった。

「……アヤナ、一つ問題点。さっきお前がトライデント使って援護するって言ったら、みんなの士気が物凄く高まった。そこを、アヤナではなくウェインと言う人間が行くとなったら……!」

 すると意外な人間、ファルが声を出した。

「うぇいにーって、物凄く名前売れてるよ? つええ、って。多分みんな、あやなんが行くより心強いんじゃね?」

「……そう?」

 続けるようにディアが言う。

「もちろんよ。そもそも単純な戦闘力で言えばウェインはこの国では最高峰だと思うし、そう評価されてる。レーンが近くにいたから、ウェインはなんだか卑屈と言うか……自己評価低い感じだけど」

 そう言われて決断した。アヤナと視線を合わせると、アヤナも肯く。彼女は『らっちゃん』から下りてきて……手にしている槍を見せる。

「ウェイン。この槍、持ってく? 別に攻撃に使わなくても」

 確かにアレを持って行って掲げるだけでも、士気と言う意味では良い効果を与えるだろう。手綱は片手で持たねばなくなるけども、別に全速力で飛ばすわけでも無い。どうしても邪魔なら、その槍は途中で捨ててもいい。アリス隊の誰かに渡すだけでも戦力増強になる。少し考えたが……

「いや、やめとく。そっちで持ってて! ある程度はアヤナが持って目立った方が良いと思う」

 アヤナは肯いて、小走りでこっちへ走ってきて、入れ替わる。

 『らっちゃん』の周囲にいた三人の女騎士も、ウェインに軽く肯いた。そしてその……ピンク色の髪の毛の少女は、自分が被っていたヘルメットをウェインに渡してくる。

「ウェイン様、これを!」

「ありがとう!」

 馬上戦闘が素人同然のウェインに配慮してくれたのだ。その少女は悪戯っぽい笑みをウェインに見せる。小悪魔的な可愛さがあった。

 そこにディアが、その少女へ向けて小さな袋をトスする。

「ピンク騎士さん、これ使って!」

「え? ……え!? これ!?」

「気休めだけど。頭にバンダナやらハンカチやら巻いて! その中で後頭部に仕込めば衝撃に強くなる! もともとは血止めだし!」

 どうやら何かしらの衝撃吸収材のようだ。ディアは役に立ちそうなものを割と色々持っている。今朝はショートソードもない丸腰状態だったが、それでも何かしら手元にあったのだろう。

 ピンク髪の少女は言われるままに、自分のバンダナだか何かを取り出して……頭に巻いて。ディアが渡した白い綿みたいなのをそこに詰めている。彼女はウェインと目が合うと……今度は小悪魔的な笑みではなく、何故か顔を赤くして俯いている。


 そこでウェインが『らっちゃん』に乗ると……。

「お!? ブラード! お前、ひょっとしてかなり凄い……!?」


 乗った瞬間、分かった。ウェインが今まで乗った馬とは全く違った。『らっちゃん』……ことブラードは、この状況で全く怯えていなかった。むしろ自信満々でありウェインの方が自信がなかった。そして……こちらに勇気を与えてくれるような感覚。

 こんな馬、見たことがなかった。

 馬はとても繊細であり、普通、こんなに怒声と爆発音が響く中ではなかなか使えない。専用に訓練された軍馬とは、こんなにも『どっしりしている』ものなのだろうか。いや、この子の頑張りなのだろうか。

 これは確かにアヤナも自信を持って太鼓判を押すだろう。


 周囲はやかましい戦闘音だが、ブラードは全く怯えていないのだ。

 ウェインはこの子と、そして自分自身がどうなるか、のテストをしたくなった。

「『トライデント』隊、ちょっと試します。少し待っててください!」

 手綱を持ち、軽くブラードを走らせた。

 最初は歩かせて……早くして行って……はやあし。

 凄いと思った。この子は全く怯えてない。きっちり動くけれど、逆に遊びを残し、こちらを気遣っている気配すらある。旋回させて、元の場所に走らせた。

「凄いな……。乗って、めっちゃ速く走らせて突撃したくなる……その気持ちが分かる!」

 そこで白馬の、緑色のセミロング……槍のようなモノを持った女騎士が併走して軽く声をかけてきた。

「男性は、そう思う人が多いみたいですね」

 少し笑顔。真剣な顔の中にも、なんだか、ほんわかした感じもする。

「でしょうね……気持ち良いし。で、俺も行けます。援護頼みます。こっちはビビったら途中で下りて勝手に逃げるんで、貴方たちはそのまま前線の援護を」

「了解です、ウェイン様!」

「アナタは……エミィ、と呼ばれていましたが?」

「はい、エミィと呼んでください。あっちの赤い髪の少女はルビィ。向こうのソフィのことはご存じですよね」

「存じております。いえ……えっと。私が前に出るとして、そちらの戦術は?」

「正面の敵は私がやります」

 彼女が軽く掲げた槍。先端にごちゃごちゃ付いている。

「ハルバード?」

「はい」

 槍の穂先の方に、斧と、その反対にピックが付いている武器。重いし扱いは大変だと聞いたことがある。

 歩兵が使う長いハルバードは見たことがあったが、馬上で使うのは見たことはなかった。片手でも取り回ししやすいように短く設計されてるようだ……が、それでも剣よりはリーチが長い。

 もちろん強い攻撃をする時は一瞬手綱から手を離す必要もあるだろうけども、基本は馬上の片手で持てるようだ。見ただけでも相当強そうである。

 エミィは続ける。

「ソフィは槍を投げることに秀でてますが……指揮や各員をカバーする存在です。これは地味ですが、一緒に走るだけですぐに分かると思います。そしてルビィは中距離支援」

 向こうのルビィと呼ばれた、ピンク髪の少女の武装を見る。先ほど乗馬用のヘルメットを貸してくれた少女だ。手には小さなクロスボウ……。

「エミィ。あのクロスボウは馬に乗ったまま使えるのか?」

「大丈夫、使えます」

「下馬しての装填が必要ない?」

「はい。但し威力とか射程、使い方は普通のクロスボウと全然違うので、そこは本人に任せてやって下さい」

「分かりました!」

 そのまま馬を少し走らせて。元の場所に戻る。ソフィア特務伍長と、ルビィと言われた少女の馬が近くに来て、簡易な隊列になった。

 そこでタニアが声をかけてくる。

「ウェイン、行けそうか?」

「ああ。大丈夫そう。このブラード、凄く良いんだ!」

 するとエルが大声を出した。


「ウェイン、後ろに私を連れて行ける?」

「えっ!?」


 皆、少し驚いてエルを見た。だがエルは自信があるようだ。

「私も馬なら少し乗れる! ディアやアヤナの『馬上のイメージ』もある! ウェインの背中に抱きついてくっついて行くだけなら、大丈夫だと思う!」

「しかし!」

「私とウェインの体重を足して110kg程度。装備はほぼなし。重さは短時間なら問題ないし、私の防御魔法や回復魔法があれば、正面の援護だけでなく私たちの馬そのものを保護できる!」

 それはある意味、理想だった。そもそもが『ウェインとエルが門の近く行く』ことは戦力的にはとても有効だった。彼女の防御の魔法があれば、悪魔達の攻撃が飛んできてもこちらはあまり回避行動を取らなくていい。エルが弾いてくれるからだ。馬の速度を少しゆっくりに落とせば……!

 アヤナがまたも、自信いっぱいに言う。

「ウェイン! らっちゃんは乗り手を落とさない! 行ける!」

 こうなると根拠がないように思えるが……ウェインは言った。

「よし。エル、後ろに乗って!」

「うん!」

 エルは軽やかに……は無理だったが、それでもウェインが思ってたより彼女は手慣れており馬に乗れた。

 彼女はウェインの後ろに乗り、背中に抱きつく。

「大丈夫! ウェイン、行けるわ」


 ディアが一旦それを止めた。

「待ってエル。これ!」

 彼女は馬上のエルに、野球帽を渡していた。

「手頃なヘルメットがなかった! コレで我慢して!」

「ううん、ディア。大丈夫」

 エルは馬上で、ウェインの背中に抱きついたまま、その野球帽を後ろ前にして被る。

 さらにディアは、先ほどの白い衝撃吸収材も手渡していた。エルはそれを見て……

「え。これ……? そっか……」

 少し顔を赤くしながら、後ろ頭と野球帽の間に突っ込んでいる。

 アスリーは割と真面目な顔で手を振っている。

「エルちゃん。ふともも擦りむけるかもだけど、頑張れ!」

「先生。私が自分で言い出したんだから、大丈夫!」


 ウェインは手を上げた。

「よし。……トライデント隊、少し試します! もうちょっと待っててください! エル、行くぞ!」

「お願い!」


 ブラードを、またも軽く歩かせ……段々と速度を上げていく。

「凄い……」

 ウェインは声が漏れた。その言葉はエルとブラード、どっちに言っただろうか。

 エルはかなり『乗れて』いた。想像以上だ。身体がガクガク揺れることがあまりない。これなら、くっついて二人乗りしてるぶんなら大丈夫だと思った。最高速を出すわけでもない。

 そしてブラードは、乗り手の重さが変わった……と言う認識ではなく、ちゃんと、人間二人が乗っている、と感じ取っているらしい。

 これならスタミナその他も問題ないと思えた。そもそも他の騎士達も、多くの武器と金属鎧に身を包めば110kgなんてすぐだ。そしてこちらは全速力は出さない……と考えれば、戦術的にはとても有効だと思えた。


 アリス隊の基地、そこの門。悪魔達との戦いで声や音や光は相当なもののはずだが。ブラードは全く意に介さない。

 ほぼ即席の、二人乗りでの実戦投入。その姿を見てアスリーは呟いていた。

「すげぇ……愛の逃避行」

 ディアが律儀にツッコミを入れている。

「逃げてどうするんすか」

 アスリーはわたわたと手を振る。ここらへん、この二人がいると、そこそこリラックスできる。アスリーは言った。

「でもさ。コンセプトは最強なんよ。馬の速さと、黒魔法の攻撃・打撃力と、白魔法の防御・回復。全部同時にできる。ほんと、マジで最強」

 そもそもウェインが『強い』とされる理由の一つに、移動しながら魔法攻撃できる……と言うモノがある。しかしこの場合、それらは馬にやらせる。あるいは逃げて距離を取るのも、馬なら素早く遠くまで移動できる。攻撃、そして防御はそれぞれの専門魔法使いが分担して行う。……一人で同時に強い魔法は使えないが、分担するなら、それぞれ上位の魔法が発動できるわけだ。


 アルテナ大尉も肯く。

「『マジック・ナイト』の最終形・究極系です。恐らく戦闘力では地上最強でしょう。ただ……それぞれ強い馬と、強い魔法使いの二人が必要なので、集団運用されたことはほとんどありません。馬を乗り潰すこともできませんし。維持コストと訓練時間だけでも莫大でしょうに、全て個々人の素質が必要なのですから」


 それを聞いて。アスリーやアルテナ大尉のところから、フェイが拳を上げた。

「先輩! 『トライデント』は先輩を守ります! 指揮ならソフィが出きるので、任せちゃっていいかも!」

「わかった!」

 馬の鼻先を変えさせ、元の場所に戻りながら。

 ウェインは手綱を持ち直して、叫ぶ。




「アヤナ! 俺らのメンバーはお前が仕切るんだぞ! 心の準備しとけ!」

 槍を持ったアヤナは肯く。

「やってみる!」

「無理ならお飾りでも良い! 無理そうならタニアにやらせろ!」


「んーん、やってみる!」



 ウェインは。

 実は。

 この戦場で。


 何故か高揚していた。






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