表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.4

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

325/327

襲撃


 アリス隊の宿舎内。蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。

 甲高い女の子の悲鳴はなく、低い怒号。

「敵襲です! 敵襲!」

「敵、戦力は高い模様!」

 多少の混乱があった。

 そこでアルテナ大尉が宿舎の中央付近へ進んでいく。

「アルテナだ! 状況知らせ!」

 何人かの隊員が大声で返してくる。

「襲撃を受けてます!」

「確かか?」

「確かです!」

「規模は?」

「不明ですが、多数!」

「了解した!」


 アルテナ大尉は宿舎の中央付近へと歩く。その姿は今までウェインが見ていた楽しそうなお姉さんではなく。確実に指揮官の、そして戦士の姿だった。

「総員起こし! ルー中尉、外の状況をまとめて! こっちと連絡を密に!」

「了解です!」

 近くにいたルー中尉が、その場にいた数人を連れて宿舎の外に出て行く。

 フェイが軽く叫んだ。

「アルテナ大尉、私は『ボーパルバニー』を取ってきます!」

「お願い!」


 向こうにいる、おそらく上級の士官が手を上げていた。

「アルテナ、外の指揮をお願い! こっちは武器持たせて増援させるから!」

「ラマ、了解したわ! 宿舎内部の守りもお願いね!」

「大丈夫!」

「総員、戦闘配置について!」


 ザワついていた隊員が、すぐに規律が保たれて集団的に動くようになる。手際が良い。日頃から、よほど訓練していたのだろう。

 ウェインはアルテナ大尉に言った。

「ウェイン中尉のチームは。アルテナ大尉の指揮下に入ります!」

「承知しました! ウェイン中尉はウェイン隊として、遊撃してください」

「はっ。……は?」

「こちらは、そちらの能力を知りません。逃げて安全なところに退避して構いません。こちらで人をつけます。ミュール中尉、エミア少尉、お願い!」

 こちらが怪我をしないようとの配慮だ。正直ウェイン本人や、タニアやディアならば、どうとでもなるだろうが……エルだのアヤナだのに被害が行くと困るだろうし。完全な民間人のファルを怪我させたら責任問題になる。それは『全く配慮していなかった』ということになるからだ。だから護衛をつける必要もあったのだろう。


 アリス隊の宿舎の、外へのドア。流石だ。外に出ようと闇雲に押し合ってる人はいない。ホール内で整列し、それぞれのリーダーの命令でまとまって外へ出て行く。

 逆に、外から内側へ戻ってくる人もいた。

「伝令! 通常装備要請! 可能なら重装備とのこと!」

 ホールで隊員が少しザワつき軽く声が飛び交ってから……ショートソード装備の人間が外へ少し出て行き、逆に宿舎の中へと戻っていく隊員もいた。武器庫などがあるのだろう。壁に立てかけてあった槍は、既になかった。もう持ち出されているようだ。


 ディアが真面目な顔で言う。

「どうする、ウェイン? 私なら装備なくても行けるけど?」

 確かに、特に武装がなくともディアなら十分に仕事が出来るはずだ。彼女は索敵や偵察、情報支援がメイン。本来は情報を集めて、まとめてから伝達するだけで十分。そもそも白兵戦をやっているほうが異常なのだ。

 アルテナに『遊撃せよ』と言われているのでこちらは独自に動ける。それならディアを外に出して敵の規模などを把握することは有意義だった。

「ディア。頼む。」

「おっけ。そっちは?」

 ウェインは少し考えた。今は皆、持っている装備はナイフくらいだ。しかしタニア以外は基本的に魔法がメイン。そもそもの装備は必要ない。

 そしてアリス隊が大勢いるであろう基地内では、接近戦での装備は必要ないとも言えた。

 そのタニアも言う。

「ウェイン。索敵なら私もできるぞ? 私は偵察兵上がりだから」

 ウェインは頷いた。

「一旦外に出る。俺とかエルの魔法の力なら強い援護ができるはず。ディアはフリー。ファルは中で待ってろ」


 ディアが肯き、最初に扉の外に出て……近くにいたままハンドシグナルで安全だと送ってきた。続いてタニアが斜めに走り、その扉の外でディアとは逆にポジショニングする。

 それは偵察兵上がりと言うだけに、確かにサマになっていた。

 ウェインはディアとタニアの横を通り抜けるように、小走りで外に出て……ディアが指差している方向を見た。

「マジか……」

 基地の入り口に『悪魔の群れ』がいた。……先日の『悪魔騒ぎ』のように、かなり大規模。

 グレーターデーモンは2から3はいるだろうか。ミドルデーモンも5以上だろう。その配下は、大勢いた。


 既に炎だの破壊の魔法が飛び交っている。

 爆発音やら衝撃音やら、怒号やら悲鳴やらも。


 アリス隊の人たちの声が響く。

「そこで抑えて!」

「うあああっ!」

「防御、防御!」

「ディレイ!」


 ウェインは一瞬動きが止まってしまったが、そこで立ち止まってしまうと後ろの邪魔になる。渋滞になっては迷惑すぎる。急いでディアが指定していた場所の方に移動した。ここらへん、ディアの判断なら問題ないという安心感があった。

 ウェインは後続へと声をかける。

「安全だから、急いで!」

 ウェインの後ろにいたのはアヤナだったが、挙動不審。

 しくじった……と思った。彼女らはあまり実戦経験がない。やはり中に置いておくべきだったか、と。

 しかしアスリー師匠が、色々と指示を出している。

「アヤナちゃん、ウェインの向こう側へ! エルちゃんはウェインの後ろに! モニカちゃんはその後ろ!」

 宿舎から少し離れたところにバラバラと散って、全員なんとか位置につく。……割とアスリー師匠も危険を潜り抜けてきた人種であり、テキパキ指示ができていた。

 が……


「あすりん、あーしは?」

 ……ファルがいた。


 ウェインは軽く怒鳴った。

「ファル、出てくるな!」

「え、え!?」

「中にいろって言ったのに!」

「え!?」

 勢いか何かで、出てきてしまったようだ。

「ファル、戻れ!」

 と言ったが。後ろからミュールやエミアが外に出ようとしていて……既に少し渋滞が始まっている。その後ろには宿舎の中から外へ出ようとしている隊員がいるはず。

「ファル。やっぱ、こっちこい! 邪魔になる!」

 逆に多くの人間で守ればいいだろう……と言う考え方もあった。

 まだ正確な悪魔の数などは把握できていないが、もしアレが基地の門を破って、基地のグラウンドを突っ切って宿舎の前に来る……そんな状況になったら、どのみち宿舎内にいても危険だろう。


 ウェインは軽く叫んだ。

「ミュール中尉、ファルに着いてて! エミア少尉は索敵!」

 基地では上空に幾つかの信号弾が放たれている。宿舎や仲間内への情報伝達と、ユニバーサル規格では……応援要請の信号弾だ。

 ディアが強く言う。

「目視。今のとこ両翼と背後は敵なし。正面の門、悪魔多数。目視。グレーターデーモン……2以上! ミドルデーモン5以上、レッサー4以上。ここからじゃ門の外は見えないけど、総戦力は多分2倍以上! 3倍……はないと思いたいわね」

 ここらへん。距離的、角度的に、見て把握するのは難しいはず。

 タニアが少しだけ向こう側に展開している。

「目視。『いっぱい』、だな……多分ディアの所からのほうが正確」


 門のところで。向こうにいる多数の悪魔から、無数に攻撃の魔法が発射されている。爆音が響く。そこで数人のアリス隊が戦っていた。槍や盾を持った隊員もいる。しかしもともとアリス隊は『屋内の要人警護』が主任務なので、屋内戦闘に秀でているわけではないだろう。装備も、大半の人間はショートソード装備だ。槍を持っている人間は多くはなかった。そして恐らく技量もそこまでではないだろう。

 宿舎から門の間は300メートルくらい。日頃の訓練で使われているグラウンドだ。そう狭いわけではない。

 門のところの防衛は、今は10人……そして12人に増えた。二人一組での行動が多いようで、それは防衛には有効に思えた。さらに後ろから何人も援護に入っているが……ウェインは叫ぶ。

「左! 入り口の左側もケアしろ! フェンスを抜かれるぞ!」

「了解です、中尉!」

 咄嗟に指示を出した……そもそも指揮権はないのだが。いやアリス隊でも少尉にならば、正式な指揮権があるのだろうか?

 悪魔の群れ……グレーターデーモンは、まだ後ろだ。しかしレッサーデーモンあたりの主力が押し込んできている。無数の轟音が響く。

 ともあれ『フェンス』と言ったのは、比喩ではなかった。ほとんどの『壁』は補強されているフェンスだ。さらに『門』だって、補強されただけのフェンスだ。

 これらは城門のようにガチガチの守りではない。何故ならここは王都であり、物騒な施設を多くは作れないこと、そして本来は必要ないことだったから。……軍隊の基地全てに、城壁と守備隊などつけられない。特に人件費は莫大になるし、そもそも軍隊を守る軍隊などがあったら本末転倒だ。


 もしも、この地点から。

 ウェインの『爆煙の弓矢』やら『アポカリプス』やら、あそこらへんの高位の魔法なら敵に届くだろう。しかしこの位置から発射すると減衰もする。大勢のアリス隊に『敵味方識別』をつけるのは苦労するし、一撃で全部の『悪魔たち』を屠ることは当然できない……そもそも敵の位置と数を把握していない。


 もう少し、相手に近づかねばならない。


 モニカとアスリー師匠の魔法を合わせれば有効な援護もできそうだが。しかし二人の有効打を入れるには、やはり、さらに悪魔達に接近しなければならない。

 アスリー師匠なら近づいても大丈夫だろう……と言う謎の信頼感があったが、モニカは近づけたくはない。だったら『盾』としてタニアを上げる必要がある。しかしタニアも急いで出てきた。今は丸腰だ。もし後方から槍と盾が届いたとて、彼女は鎧を着ていない。普段よりは頼ることもできない。

 いやむしろ、それでも彼女は『盾』としての役割を続けようとするはずだ。それは……自分の命と引き換えにしても、だ。

 悩んだが、前に出るのはやめておいた。

「情報収集、続けて!」

 軽く叫んだ。それは魔法学院組にはピンと来なかったようだが……ディアは少し前に出ている。

 基地のグラウンドには100人程度の『チルドレン』。確認していなかったが、基地の総戦力で150から200人くらいの規模なはず。


 10人、20人くらいが上に上がって、白兵戦に加わったり魔法で援護をしている。

 悪魔たちからの魔法やらとバチバチ衝突していた。無数の轟音と光。

 レッサーデーモン、そしてミドルデーモンの咆吼が響いている。何匹ものミニデーモンが前に出てきて……剣だの斧だの槍の形になった肉体部分で、攻撃をしていた。それとショートソードで切り結ぶアリス隊の隊員たち。

 隊員達は後ろから、結界や魔法障壁、防御の魔法で援護しているが。逆に悪魔側も援護に入っていて……数的に不利なアリス隊たちが圧倒的に押されていた。


「状況は!?」

 アルテナ大尉が宿舎から走り出てきた。後ろにソフィア特務伍長もついている。

 本職の人が来たのでウェインは少し下がる。

 悪魔の群れの攻撃は、止まらない。大量の破壊の魔法がぶつかり合い、持ちこたえられなくなったアリス隊の二人が後ろに下がった。しかしすぐに、後ろに控えていた隊員が押し上げる。

「ディレイ! いえホールド! 持ちこたえて!」

「このおおおおっ!」

「バックアップ4名追加! 牽制射、行けます!」

「Fire!」


 必死に門で防衛しているアリス隊だ。

 少し横に開いていたディアが声を上げる。

「目視。グレーターデーモン、さらに一体確認!」

 やはり戦力が多い。ウェインは手を上げる。

「みんな、少し下がって! アリス隊に譲って! 俺は少し近づくから!」

 タニアが言う。

「こっちの指揮はどうするの?」

「アヤナ、指揮やれ!」

 少し浮いて、上がろうとすると……ふと目に入った。


 騎馬、四騎。今朝アヤナたちが乗ってきた馬だ。

 四頭のうち一頭は黒毛の立派な馬で、今朝アヤナが乗っていた馬。名前はブラード、『らっちゃん』。

 残り三騎は白馬。三頭のうち一頭には兵士が乗っている……女性だ。フェイやタニアよりは少し年上くらいの感じか。髪型は緑色のセミロング。真剣な顔つきなのだが、それでもなお、どこか、ふんわりした感じすら見えた。

 手には槍のような……でも槍とは少し違う感じで、先端がごちゃごちゃしてる、長い武器。

 簡素な白い鎧に身を包み、背中辺りまでの短い緑色のマントを着けている。

 その彼女は横を見て大きな声を出す。

「ルビィ、行ける?」


「行けます!」

 白馬の一頭の横に、少女が小走りで近寄る。途中で、ピンク色のマントを着けた。

 ウェインと同年代の少女。髪型は薄い赤い色の、ショートカットだった。服装は軍服のようだがレオン王国軍の制服とは少し違う。

 彼女は手に小さなクロスボウを持っている……そこでウェインは驚いた。

 クロスボウ。弓の一種に区分されるが、弓とは操作や技術が全く異なる。

 一般的なクロスボウは、片足で地面に固定して両手で弦を引っ張る。だから強力な威力を誇る。その反面、両手が塞がるので馬上では使えない……と思ったが。少女が手にしているのは通常のクロスボウより小型だった。アレなら片手で引けるのだろうか?

 少女はナイフを取り出し、その小型のクロスボウの先端に装着する。

 そして白馬に飛び乗った。

 そこから、その白馬の二騎がこちらへ向かってきて……



「アヤナ様!」

 とアヤナに声をかけた。

「エミィ!」

 アヤナはウェインと顔を合わせる。

「エミィ達は軍隊の所属じゃないの。直近の上司は私なのよ」

「なるほど」

 白馬の騎士の、年上の方の女性は、またも声を出す

「アヤナ様、ご指示を!」



 アヤナはウェインを見てから、自分の顔を指差す。

「ウェイン。私と『らっちゃん』なら、上がれる! アリス隊を援護できるわ! どうする!?」

「アヤナ。しかし」

「エミィとルビィなら行ける! 私を守ってくれる! 大丈夫! 強い、凄い、かっこいい!」

 アヤナは自信満々だ。ウェインは少し考え、許可を出した。



「牽制と援護だけやれ! 絶対に突っ込むなよ!」



 アヤナは大きく肯いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ