ざわめき
アリス隊のミーティングスペース。
ウェインの『仮説』……バラバラ継ぎ接ぎ仮説に、みんな少し重い顔だった。
タニアが少し抑える声を出す。
「そう言えばさ。『瞬活』技法の技術って、どこから来たんだ? 私はレーンがどこかから持ってきたって、軽く聞いたけど。世の中にそんなのが出回ってるのか?」
フェイも軽く肯く。
「そうですよね。これは私が聞いた限り……ですけど。戦闘術の呼吸法でちょこちょこ頑張る技術は少しあります。でもそんなに緻密だったり体系だったりされてるのは聞いたことがないですね」
視線がディアの方に集まる……彼女は肯いた。
「ドコから来たか。私もおおもとは知らないわ。今レーンが探しに行ってる『ケイン・フォーレン』って人。あの人に私たちはお世話になったんだけどさ、そこから教えて貰った」
モニカが悔しそうな声を出す。
「だったらレーンさんに聞いてみるように、言っておけば良かったですね。行き違いになっちゃいました……」
ディアは軽く手を振った。
「ん。こっちから色んな情報を流せば、レーンは適当に情報を掴むでしょ。もともとアイツはそう言う系なんで」
「……私、割とディアさんとレーンさんが何者なのか分からなくなってます」
恐らく、それは場の満場一致の感覚だった。しかしディアが言う。
「ちょっと問題があるわ。私の名前を出したくないケースも考えられる。何をしてもアイカとかには見つかっちゃうだろうけども。で、そんな時にとりあえず名前を出してもヘンじゃない人……アヤナかアスリー先生かな。どっちかの名前、使っちゃっていい?」
アスリーは肯いた。
「私は構わんぞ。アヤナちゃんは?」
「私も大丈夫です。私の名前は便利かも。目立ちそうだけど」
偽名や名義とか大丈夫なのか、とか思ったが。ウェインも先日のアパレルショップで、サイドリボンパンティを買った(買わせた)エルのことを『アイカ・ラルハイ』と勝手に言っておいた。テキトーで良いのかもしれない。
アルテナ大尉は言う。
「私たち誰かの名前でも構いませんよ。……アリス隊の名前は、使われると少し困りますが」
ディアは、ふにゃっと肯いた。
ソフィアがちょこんと片手を上げる。
「脳とか呼吸法のことですが。ウチの隊ではないんですけど、弓の使い手がいます。なんでも、段々と色覚情報が欠落していき、逆に集中できる……と言う状態に、自分自身で入れるそうです。それって、少し聞いた『ホワイトフィールド』に近いかもしれません」
ディアは肯く。
「いあぁ。そうなのよ。『瞬活技法』って、完全に特別なものは少ない……んじゃないかな? 例えばさ。相手の攻撃の予備動作から次の攻撃を読む『未来予測』って技法があるけど。アレはきっと、達人であればあるほど、無意識でやってそうだし。結局は脳の制御。それをまとめたもの……だと思う」
そこにモニカが言う。
「ディアさん。『瞬活データリンク』あるじゃないですか。私たちが使ってるヤツです。これ例えばウェインさんが、対ファントム戦で見た記憶を、他の人がある程度は見て共有できるようなヤツですが」
「うん」
「アレの『射程』とか。『威力』……と言ったらヘンですね。『精度』とか『減衰』って、どうなるんですかね?」
「んー。どうなんだろ? そこまで考えたことはなかったな。ウェインはどう思う?」
ウェインは肯く。
「今まで割と手を繋いだりして接触して使ってたからなぁ。……でもアレが多少なりとも『魔力』を使ってる以上、魔力が高ければ高いほど、遠くへ、強く正確に届くはず」
アヤナが聞いてきた。
「ざっくり、どれくらいかな? 最長の射程とか」
「理論的には水平線まで届く。ロスは受け手が大幅に増幅させるならば」
「ロマンありすぎね……」
「減衰も。俺たちが思う、例えば攻撃魔法の計算って。あくまで『有効射程』なんだ。『最大射程』は、もっと長くなるし。減衰しても……どこからが『完全なゼロ』になるかは分からない。重力に引かれて地面に落ちれば、まあ『ゼロ扱い』で良いんだろうけど。当の魔法使いだって、空気抵抗やら重力って、そこまで気にしていない」
ファルが口を開けた。先ほどから、ウェインへの呼称が変化している。
「お兄ちゃん。その、しゅんかつって何?」
「戦闘技術の一つだ。ファルには関係ないことだ」
「えー。お兄ちゃんまでそんなこと言うの?」
ファルは頬を膨らませる。
「ファル、そうじゃない。使い方を間違えるとヤバいことにもなるんだ。使わないに越したことはない。そんな技術」
「私だって、少し戦えるようになったのに……」
「普通学校で少し、の程度だろ。この前のを見る限り、やっぱりファルは強くない」
「うー」
ファルは悔しそうに言う。
「じゃあアヤナんが使ってた技術は?」
皆ピンとこなかったが、アヤナが手を打った。
「そっか。前、訓練場で調整してたっけ。あっちは『気流』ってやつで、別物よ」
「教えて?」
「まぁ……いいわよね?」
ウェインは軽く肯いた。もともとアレは『生命エネルギー』を転化させる技術。あっちなら別に構わない。
ついで、と言うことで。その場のアリス隊全員に伝えることにした。
ミュール中尉とエミア少尉は同行することになっているし、フェイは少し使えるはずだがアヤナのお手本を見るのは有用に思えた。
ただ、もともと『使い方』や『発動方法』はかなり特殊であり、実用レベルに行くまでは時間が掛かるだろうし。
それにそもそも『瞬活データリンク』を使ってアヤナのやり方、脳からの信号や記憶を皆で『見て』、『共有』した。なので『瞬活』技法そのものを使えないと、あまり伝わらないだろうけれども。
その場のアリス隊。
フェイ。
アルテナ大尉。
ミュール中尉。
エミア少尉。
ソフィア特務伍長。
そしてファル。
アヤナは彼女らに、手から蒼い炎のようなモノを出し『気流』のやり方を伝えようとしたが。やはり上手く行かなかった。もともと気流を扱っていたフェイだけ少しフィットした程度だ。
それは予想通り……なことだったが。
一つ、予想外なことが起きた。
「あれ?」
ファルの手が青い炎で光っていた。
全員、どよめく。
ディアがアヤナに言った。
「アヤナん、アヤナん。『気流』って、フランソワーズ家に伝わる秘伝みたいなものじゃないの? なんか簡単にできてるけど」
「そう言われても……。あとフランソワーズ家ではなくお母様の技術よ? でもウェイン達だって発動までは割と簡単にできたわ。使えるかはともかく、発動くらいは結構できるのかも」
「でも。ここの他の人は発動すら……」
ファル本人ですら困惑していると。エルがおずおずと言った。
「あの……ファルさん?」
「なに、えるるん?」
「この技術って……絶望とか重傷とかになると、って……」
ウェインは色々思い出した。アヤナは、母カルナに切り裂かれて瀕死になってから、強大な力を得たようだ(ここ数日は不安定なようだが)。
「絶望……」
そう。ファルは、人生に絶望していた。
そして……自分で左の手首を切りつける自傷行為を繰り返していたようだ。死にかける……と言う点では、確かにファルは色々な意味で死にかけていたのだ。
ウェインはファルにアドバイスのようなものをした。
「ファル。その力は、自分自身限定だけど、少し癒やしの力がある。それだけは信じて良い」
「わかった!」
「あと。それは。どうしても避けきれない時の、一点防御で使え。何かで攻撃されたりとかの時」
「おにいちゃん。攻撃は出来ないの? ファル、ボクシングできるよ?」
「無理だよ。訓練しないと使えない」
「訓練すれば使える?」
「そりゃあ……。でも、そもそも攻撃する相手がいないだろ」
「むー」
ファルが少しむくれた、その時。
ミーティングルームに複数の、女性の叫び声が聞こえた。甲高い悲鳴ではなく、低めの怒号。
ウェイン達は即座に頭が切り替わる。
何か大変なことが起きたのだ……と。
魔法学院組のエル、アヤナ、モニカ、そしてファルあたりは即座には反応できていなかったが。アスリー師匠は即座に身構えていた。
「大尉、私が。エミアはカバーを」
ミュールが率先して、ミーティングルームのドアに近づく。
普段の訓練通りの行動なのだろうか。エミア少尉は駆け足で、ミュール中尉の逆側にポジショニングする。
ミュール中尉がドアを開けると……宿舎は大騒ぎになっていた。
「てきしゅー! てきしゅうーぅ!」
「敵襲です! 襲撃を受けています!」
「詳細不明! しかし敵、多数の模様!」




