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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.4

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322/328

悪魔の皮膚


「今後、多分。各地で悪魔が多く出没するようになります」



 そのウェインの言葉に、皆が少しザワついた。ディアがちょこんとする。

「ウェイン。どうしてなん?」

 ソフィアが公式記録を取っていたが、ウェインは普段の口調に戻した。

「いや。ただなんとなく思っただけ。でも幾つか……今までと違うことが、最近立て続けに起きてる。そしてダグラス戦の夜、魔物のことをアイカは確実に『実戦テスト』と言ったんだ」

 モニカは。繰り返すように言う。

「『実戦テスト』ッスか……」

 ウェインは肯く。

「そう。そして最初にファントムと対面した時、あそこらへんに出没した『悪魔』たち。そして途中の旅路とかはカウントするかはともかく……先日の王都での『悪魔騒ぎ』も。特にこの前のは凄かった。あれは異常だ」


 ウェインは振り向いてアスリー師匠を見る。

「師匠。『ファントム』を『悪魔』と呼ぶ……あるいは悪魔と区分するかは、そもそも難しいです」

「ん? そうなのか?」

「はい。『ファントム』は皮膚を……どこからどこまでかはともかく、身体の表面を悪魔の皮膚か何かで覆っていた。でも、それだけな感じもします。喋っていた『言語』って意味では……『ファントム』はレオン王国語を普通に扱えた。恐らくユニバーサル言語も使えるはず。そこらの悪魔だったらこっちに分かる言語は使ってきません。『アッシュ』の時代にどうだったかは知らないですが」


 ウェインは周囲を見渡してから……アスリーを見た。

「そもそもファントムって、怪しいんですよ。自己申告では『身体の表面が悪魔』『アッシュ20歳時点の魔力』『その記憶』、なんてありますが。そもそも記憶が同じ……なんてありえますかね? もし教科書の年表みたいなのなら、記憶とは言えないはずだし。例え瞬活データリンクのようなもので共有したって、20歳の人生の全てを標準速で見るには20年かかる。入力と出力にもよるけどフィットしないだろうし」

 エルがちょこんと片手を上げた。

「ウェイン。倍速で見たらどうかな? それなら10年で見れる。あと寝てる時間とかをカットして。魔法生物とかにその記憶を植え付ける。それで一人の人生全てを『体感』どころか……そのまま全てを味わえるかも」

 ウェインは軽く首を振った。

「エル、ちょっと無理くさい。理論上でも、やはり一人の人生全てを追体験するには無理がある。過去の経験から未来への予想なんて、感情なんかによっても変わるだろうし」


 そこでウェインはアスリーに言った。

「師匠。『ファントム』に関することは、『アッシュが生前の頃のレオン王国語』を調べるのも良いかもしれません。言語は生きている。使い方とかで時代も分かるはずです。スラングがあれば一発」

 ファルは『一昔前の』ギャルっぽかった。昔のでも最新のでもなく、だ。

 アスリーは肯く。

「おっけ。ウェイン、向こうの学会には何か出せそうか?」

「はい。魔王研究の学会でも、そうです。魔王だか大魔王だか、自称魔王だかは知りませんが、『言語』を使う以上はそこでアテがつく。文献以上のモノがあるはずです。記述なら文字や意味のクセとかもそうでしょうけど、しゃべりのイントネーションならネイティブかどうかだけで……何かおかしなところが出てくるはず。調べたいならば、ですけどね。興味を持つ学会員もいるかも」

「……ウェインは何か調べてくれないの?」

「イヤですよ」

「なんで?」

「面倒だし、興味ないです」

 アスリー師匠は頬を膨らませた。しかし彼女も呟く。

「まあ私も、そこまで協力的じゃないしなぁ」


 一瞬、静寂になる。タニアが声を上げた。

「私、あっちの人のことよく知らないんだよな」

 アヤナも言う。

「私たちも、向こうのこと知らないわよね。そうだモニカって……」

 ウェインは言った。

「それは良い。それより、アルテナ大尉?」

「なんでしょう、ウェイン中尉?」

「そもそもですが。どうしてレオン王国は、躍起になって討伐隊を作ってまで、ファントムを倒そうとしているんでしょうか。調査とかでなく既に『討伐』となっているあたり、国は何か把握しているんですか?」

 アルテナ大尉は軽く首を振った。

「私たちアリス隊には何も知らされておりません。それこそ管轄外なので」

 もともとアリス隊は屋内専用の『女性の要人警護』が任務だ。戦場に出るのを想定されてはいない。

 そもそもウェインが最初にファントムとやりあって、瀕死になって。アリス隊が、モニカのカドニ村からウェインを回収してくれたのは『たまたま近くにいた』という理由だけだったはず。

 彼女らは大規模で展開することはないし、仮に動いても何人かつけてくれる程度だろう。


 ウェインは少し思い出した。

「アルテナ大尉。前に討伐隊の話を聞いた時。アリス隊からも人が出せる……ようなことを聞いた気がしますが?」

「はいウェイン中尉。当時ウェイン様には既に縁がありましたし、またアヤナ姫を護衛するなら私たちが最適なので」

「なるほど」

 続けてアルテナさんが言う。

「『ファントム』に限らず悪魔はとりあえず倒せ、と言うのが今の決まりですが。『ファントム』はウェイン様に倒された後『消滅しなかった』と言うのが、上層部でも問題視されたようです。先ほどウェイン様が仰った通り、彼は『悪魔』ではない……のかとも議論されたようです。どうですかウェイン様?」

 ウェインは肯いた。

「はい。私は、ファントムは単純な悪魔ではないと思ってましたし」

「それはやはり『言語』の問題ですか?」

「はい。それもありますが。色々とおかしいんですよ。何というか、発想が人間的すぎる」

「それは……?」

「悪魔ではないのに。内臓系はあるらしいし『悪魔の皮膚』がある。どこまでかは分からないが『記憶』がある。言語を扱える……とりあえずレオン王国語の言語。コレ、どう見たって存在が『悪魔』ではない。むしろ『人間』に近い」

 そこでアスリー師匠が聞いてくる……彼女は普段、ちゃらんぽらんだが。今はある程度は悪魔を追っているようで、真面目に働いているようだ。

「ウェイン。ファントムが人間に近いとしてさ。それ、何のためなの? 誰かが仕組んでやってんの?」

「誰かは分かりませんが、人間がやってるプロジェクトみたいなものかも。カドニ村だかの東で通信障害起きたらしいし。位置的にニール王国とかが関わってるかも」


 そこでエルがその碧い瞳をこちらに向けてくる。

「ファントムが。何のために存在するか、って言うのは分かるの?」

 アヤナが声を出す。

「単純に悪魔の皮膚ってことは、防御力が上がったり再生力がつくんじゃない? 剣や槍なんかを相手に、多少なりとも弾けるってことは凄く便利だと思うし。……タニアはどう思う? 今現在、チーム最強の白兵戦闘力の持ち主の視点では」

 タニアは槍の使い手だ。レーンよりタニアのほうが遥かにオーソドックスであり、タニアの見立てのほうが一般的には分かりやすいはずだ。


 そのタニアは肯いた。

「私はファントムを見たのはこの前だけ、だけど。人間の皮膚が、そのまま悪魔の皮膚になっていると考えると……攻撃しにくい、と思う」

 モニカは目をくるくるさせた。

「攻撃が通用しにくい、ってことッスか?」

「んー……ちょっと違うかな」

「?」

「私たちの攻撃技術ってさ、人間の急所を狙うのがよくある。そして、そんな急所を守るのが鎧なわけで。つまり逆に……鎧の隙間を攻撃する技術もよくある。人間の構造や可動域は同じだからね。だけどそんな『悪魔の皮膚』というものでカバーされれば、普通の人間相手への攻撃とは違うことをやる必要があると思う……んー、うまく言えないな。単純に攻撃が弾かれると言うわけではなさそう」

 ウェインは言った。

「多分。剣をファントムの顔面に突き刺そうとして、命中しても、かなり逸れると思う」

「ウェイン、衝撃はいくんだろ? どれくらいだと思う?」

「衝撃は割とそのまま伝わってそうだったよ」

「物理ってことでは、ちょこちょこやるより、突撃するチャージに近い感じのほうがいいのか。向こうの自己申告で内臓系が同じなら、狙い所は同じとして」

「タニアなら一対一でどうやる?」

「どう、かぁ。間合いは普通の白兵より近めだね。距離を取られて魔法を使われたら、もう私にはどうにもならない。だから近めに張り付いて……被弾覚悟で組み討ち。そんで首か関節を狙う。そこらへんはファントムに効くようだし」

「勝ち目はありそう?」

「地形と、向こうの魔法次第だね。正直、分からない。私は世界トップレベルの魔法使いを相手にしたことがない。ウェインと最初に模擬戦やったくらいで」

 ウェインを上回る魔法を備えているのは、人類では少数だと思われた。しかしファントムの魔法がどれほどかは詳しくは分からない状況である。


 ディアが言った。

「ねえねえ。防御ってだけの観点からだとさ。悪魔の皮膚なんて使わなくても、白魔法である程度は防御できるよね? エルのを見てるとかなり出来る気がするよ?」

 エルはコクコク肯く。

「対象との位置とか準備時間、接続時間にもよるけど。直撃を受けた時に弾かせることはできるわ。それも多分……かなり強く」

 ディアは。少し真面目にウェインに顔を向ける。

「それならさ。ファントムがわざわざ『悪魔の皮膚』をしている必要性がないんじゃないの? かくれんぼ大好きな私からすれば、白魔法で代替できるようなモノ程度と引き換えに、目立っちゃしょうがないと思う」

「そうだなディア。お前なら、きっとそう思うだろう」

「そもそも強いったって、一騎当千の存在ではないんでしょ? 結局は複数で当たられたら厳しいくらいの強さで。すると、やっぱ、なんだかなーって思うのよ。ウェインはどう思う?」


 ウェインは肯いた。

「少し考えたことはある。まず一つ。ファントムが自立するために、あの悪魔の皮膚が必要だと言うもの」

「『自立』?」

「うん。人間の身体って、骨があって、肉がついて、動くだろ? でもそこらが上手くいってなくて……要するに外側が悪魔の皮膚ほどの強度がないと、動くことが出来ないほどに、内側が弱いとか、そういうの」

「ふーん?」

「でも我ながら違うと思う」

「そうなん?」

「自己申告で『内臓は人間と同じ』らしいからな。だったら内部構造もそう変わらないだろう」


「ふんふん。それで、他に思いついたことって?」

 ディアの言葉に、ウェインはごく自然に言った。






「『あいつをバラバラにする』」





 ウェインの言葉に、ちょうどトイレ(で落ち着いて)から戻ってきたファルが、ビビッて慌てて、土下座の準備すらしていた。






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