悪戯好きの猫は木から落ちる
ミーアの良いところは、あまり落ち込んだり悲しんだりしてもそれが長続きしないところです。お昼寝をしている間に大抵の悩み事は去っていってしまうし、あまりにもわずらわしいことが続けば移動してしまえばいい。ミーアは自分が猫であることが好きでした。
ある日の夜のこと
その晩はとても良い夜でした。
といっても、ディアが歌っているなら、ミーアにとってそれはいつだって良い夜なのですが。
ミーアはふと思い立って、彼が舞台に選んだ広場の木に駆け上りました。
高い高い木の枝に寝そべって、そこからディアを見下ろしてみたのです。
いつもとは違って、足元から空にむかって
ディアの美しい声が高く高く広がっていきます。
彼の歌は喜びそのものだわ、とミーアはゴロゴロと喉を鳴らしました。
そのミーアの隣にふわりと腰をかけたものがありました。
それは、三つ足カラス、ミーアの古い友人の一人です。
彼はディアの歌の邪魔をしないよう、そっと呟きました。
「ミーア、君は猫だよ」
「・・・知っているわ」
ミーアは三つ足カラスの優しさに感謝するように
すうっと目を細めてから、柔らかなヒゲを風にそよがせます。
「僕たちはここで仲間に出会ってしまった。卵を抱いて、雛を育てて、そういう生き方がきっと出来ない」
「あなたも・・・、あの絵描きとの間に特別な絆があるのでしょう」
「ミーア、僕の友達。出会ってしまったら、どうしようもないんだ」
「これを、恋と呼ぶのは違うのでしょうね」
「そうだね、たまたま魂が惹かれ合った。でも、僕たちは互いを慈しみあっても、愛し合ったり、満たされることはない」
「でも・・・」
ミーアの大きな丸い翡翠色の瞳から、ぽろりと真珠のように涙が一粒すべりおちていきます。
「少なくとも、あなた方は想い合っているわ」
「ミーア、君のことも僕たちは大切に思っているよ」
「わかってる。でも、私が欲しいのはディアだけなの」
ディア、と名前を呼んだのが聞こえたかのように、広場にいるディアがミーアを見つめました。
「いつもあなたは歌の後にみんなと握手をするけれど、今日はどうする?」
ミーアはさきほどの涙などなかったかのようにディアに声をかけます
ディアはにっこりと笑って
ミーアのいる木の枝の高さまでふわりと浮かび上がって
可愛らしいミーアの鼻先にちゅっと軽いキスを贈りました
「悪戯っ子さん、今日も聞いてくれてありがとう」
しばらく固まった後、ミーアはコロリと木の枝から転がり落ちました
三つ足カラスは慌てて地面にいるはずの猫の姿を探しましたが
すっかり透明になったミーアを見つけることは出来ませんでした




