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催眠術

 サリユリの家から三件先には指定された公園があった。


 しかし、公園とは名ばかりで遊具も何もない。


 どうやら昔は遊具があったようだ。ところどこに鉄杭の跡があった。


 まさに喧嘩をするのにうってつけだ。


 たった二時間後、ここで雷門と戦う。


 それまでに必殺技を教えてもらうことなんてできるのだろうか。


「とりあえず、ロケットパンチくらいは撃ってみたいな」


「もう、女の子なんだからもうちょっと可憐な関節技になさい」


「関節技って可憐か? そもそも関節技なんて簡単にできるもんじゃないだろ」


「別に関節技を教えるわけじゃないわ。今から教えるのは関節技なんかよりも面白い技よ」


「一体なんなんだよ」


 もったいぶらないでほしい。


「催眠術よ」


「またかよ!」


 現状でも日常生活に支障をきたしてる。


 さすがにこれ以上の催眠は勘弁してほしい。


「勘違いしないの。新たに催眠術をかけるんじゃなくて、催眠術の切り替えよ」


「切り替えって……どういうことだよ」


「あなたは戦うとき、技で戦うスタイル……後の先を得意とするタイプよね」


 後の先、カウンタータイプということか。


 言われてみれば戦うとき、ほとんど技を主体にしてる。


「それは雷門と相性が悪い。彼は機先を制するスタイル。あなたの受けでは間に合わないわ」


「つまり、オレより強いってことかよ」


「今のあなたよりは強いわね」


 含みあがる言い方だ。


「……わかった。それであいつが必要なんだな」


 あいつ……つばさ。


 オレとは違うもう一人のオレ。


「そう。彼女ならあなたとは違って先の先を得意とした戦い方をする。彼女なら雷門より機先を制することができる」


 まさか催眠術をかけられたオレは今のオレと正反対のタイプとは。


「そこで任意に翼とつばめを切り替えられたらあなたはもっと強くなるわ」


「そんなにうまくいくのかよ」


「翼とつばめはあるきっかけが元で切り替わってる」


「そのスイッチを探せばいいんだな」


「ふふ、実は検討がついてるの」


 さすがお姉さまだ。


「今まで見守ってきた様子を鑑みると動揺してるときに切り替わることが多いわね」


 言われてみれば記憶が無くなるときの多くは動揺してるときだ。


 そのときにつばめと切り替わってるのか。


「まずは意識的に動揺して切り替わるかテストするの」


 お姉さまがじっと見つめてきた。


 どうやら動揺するように促してるようだ。


「そんなこと言われても」


「悲しいことを想像するとかそういうのでいいの」


 ……悲しいことね。


 とりあえず、テストの点数が悪かったときのことを想像する。


 ……ぴんとこない。


 まいったな。


 オレは想像力ってのが苦手なんだ。


「……ま、いいわ。こういう細かいことは苦手そうだったから期待してなかったわ」


やけにあっさり引いたと思ったが、ダメ元ってことか。


「別の手段があるからそっちに切り替えましょ」


 お姉さまがなぜかやたらと悪い顔をしてる。


 嫌な予感がする。


「実はそっちのほうが好みなの」


 かなりやばそうな気がする。


 ……できればやめたい。


「本当はあなたの意志で人格の切り替えができるのが理想だったんだけど」


 お姉さまがなぜか携帯を取り出す。


「やっぱり私がコントロールできるようにするしかないようね」


 どこかに電話をかける。


 嫌な悪寒がする。


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