情報
「あー、たんぽぽじゃない」
年齢はたんぽぽと同じくらいだろう。
眠そうな目つき、赤みがかった長い癖毛、ジャージの下からでもわかる豊満な体つき。
一目でだらしないとわかる。
「相変わらず汚い部屋ね」
「ちょっとー、乙女の部屋をじろじろ見ないでよ」
その時、一匹のゴキブリがたんぽぽの前を横切っていった。
「乙女の部屋に普通ゴキブリはいないわよね」
「それはペットのマイケルよ」
さらにゴキブリが一匹横切った。
「あれは?」
「ペットのレオナルドよ」
さらに数十匹のゴキブリが現れた。
思わず全員が無言になった。
「……放任主義なんだよね」
「どっちにしろ乙女はゴキブリをペットにしないけどね」
「もう、慣れればかわいいのに」
女性が指を差し出す。
すると、飛んできたゴキブリがすっと止まった。
「ほら、こんなに――あなた誰!?」
女性がわたわたと手をばたつかせてゴキブリを追い払った。
「やっぱり野良もいるんじゃない」
女性としては最悪だ。
「……で、何か用? ここは人が踏み入れる場所ではないぞ」
「森の長老っぽく言っても汚部屋は誤魔化せないから」
随分と親しそうだな。
お姉さまに友達がいたなんて。
「友達じゃないわよ」
勝手に心を読まないでほしい。
「この汚物は二階堂サリユリ。ランキングの主催者よ」
「こ、こいつが!?」
「ランキングって……何度言えばわかるの。正確には史上最強番長ランキングだって」
「それはちょっとシラフではいえないから」
「こんなに格好いいネーミングなのに誰も呼んでくれないなんて」
誰もランキングとしか言ってない理由がわかった。
「……その子、ランキング九位の子だよね? 一緒にいるってことは弟子をとった噂は本当だったんだ」
「さすが運営ね。嗅ぎつけるのが早いわ。でも、違う。この子は妹。弟子は違う人よ」
「……妹? あなた一人っ子でしょ。そもそも私という存在がいるじゃない。また私の面倒見てよー。ごはん作れー」
まるで子供のように駄々をこねる。
「あなたは妹というよりもペットよね」
「で、ペットの私に何か用なの? 餌ならハンバーガーがいいなー」
「自ら餌を要求するなんてなかなかのペットレベルね」
「あの、お姉さま、本当にこいつで大丈夫なんですか?」
今のところ駄目な部分しかない。
「まだナマケモノのほうが働きそうな気がする」
「たんぽぽの妹かなり失礼だね。こう見えても植物と同じくらいの働きはするのに」
「比較対象が植物という時点でかなり終わりだと思うわね」
「たんぽぽまでひどいよねー。いいわ、少しだけ本気を出してあげる」
サリユリが携帯を取り出した。
「へー、あなた翼っていうんだ。え、私たちよりも一学年下じゃない。もーちょっと先輩を敬ってよねー」
「もうちょっと先輩っぽかったらな」
それくらいなら誰でも調べられる。
「趣味が……お風呂? しずかちゃんみたいねー」
「な、なんでそれ知ってんだよ!」
「好きな人が幼馴染。最近の悩みは枝毛が気になること――ふが」
「ま、待てって!」
慌ててサリユリの口を手でふさいだ。
「ありえないだろ! 誰にも話したことないんだぞ!」
「サリユリは情報戦だけならかなり使えるわよ」
「だけってひどいー。情報を元に考察したプロファイリングなのにー」
「最初は私もこんなランキングなんて作ったやつをなぶり殺しにでもしようかと思ったんだけどねー」
怖いことをさらりと言うな。
「でも、話を聞いてるうちにランキングとそこにエントリーされた人選に興味が沸いちゃった」
「人選にも?」
「私が知らなかったやつらまで扱ってるところが面白いわね。潰してしまうよりも放っておくほうが役に立ちそうでしょ」
なるほど。お姉さまらしい。
「でも、今回のランキングはちょっと納得いかないわね」
「ん? なんで?」
サリユリが首を傾げた。
「義則のことだよ! なんであいつが三十五位なんだよ!」
「ああ、彼ねー。それは秘密」
「おい」
凄むがサリユリは素知らぬ顔だ。
「でも、情報があったの。マラドンナと雷門に勝ったっていうね」
それは違う。
雷門には勝ってないはずだ。
どういうことだ。