一時休戦
「待ちなさい」
「なんだよ」
「もしも、この場で本気で戦ったら五秒で倒せるわ。十秒もあれば関節という関節を破壊して人形みたいにできる」
「仮にも妹だった相手に対応が塩すぎないか!?」
「話は最後まで聞きなさい。今のままの義則でいいの?」
「ど、どういうことだよ」
「観察してわかったけど義則はかなりの馬鹿ね。トラブルを勝手に引き起こすタイプでしょ」
「否定できない!」
昨日のデートだって警察に捕まってた。
「今まではあなたが守ってきたんでしょうけど、それでいいの?」
「だ、だって、そうじゃないとあいつ怪我するし」
確かにお姉さまの言う通り、様々なトラブルからあいつを守ってきた。
「ナンパした女性がやくざの愛人でトラブルになったとかありそう」
そんなのはよくあることだ。
「ナンパした相手がメスゴリラで求婚されたところを助けるためにそのゴリラと戦ったことはあるけど」
「なかなか波乱万丈ね」
あれはきつかった。
「ゴリラにはないローキック戦法でなんとか判定まで持ち込めたけど、あと五分戦っていたらやばかった」
「……それほんとにゴリラ?」
お姉さまがやれやれと肩をすくめた。
「とにかくあなたは過保護ね」
「だ、だって、放っておくと怪我とかするし。もしかしたら海に沈められているかも」
とても放っておけない。
「その考えがいけないわね。少しは自分でどうにかさせるべきだと思わない?」
「そ、それは」
正論だ。
「そのためにあえて義則を鍛えたの」
「面白がってたくせに」
「それもある」
「ちょっとは否定しろよ」
「今後も義則を鍛えてあげる。そうすればあなたは義則を守る必要はなくなって、おしゃれする普通の女になれる」
「で、でもさ」
お姉さまがずいっと顔を近づけてきた。
「それとも、あなたは今のまま幼馴染のゴリラにみられてもいいの?」
「人間には見られてるから!」
「女の子としては見られてない」
「そ、それは」
確かにそうだ。
オレが着替えてても平然と部屋に入ってくる。
雨で制服が濡れてブラが透けていても屁をこきながら尻を掻く。
いつヘビー級のタイトルマッチに挑戦する? とか聞いてくる。
リンゴを握りつぶしてリンゴジュース作ってと言ってくる。
これが女の子の扱いかと言われればそんなはずがない。
「女の子として見られるには私の力が必要だと思うけど」
「……わかったよ」
「納得してくれたみたいでよかったわ」
やはりお姉さまはまだオレにとって必要だ。
「でも、いきなりランキング高くなりすぎじゃないか? ちょっと調べてみたけど、ランキングって百位以内は倒せばファイトマネーももらえるんだろ?」
オレは一度ももらったことがないが。
というか、存在すら知らなかった。
「それは私も妙に感じたわね」
顎に手を当てて考え込む。
「あのボクサー、そこそこ強いけど怪我をしていたから倒してもランキングはあまり上昇しないと思ってたのに」
お姉さまがため息をついた。
「そこだけは計算違いね。ちょっとやばいかも。このランキングならやばいタイプのやつも挑戦にくるかも」
「や、やばいって? ナイフを舐めてくるやつとか? 乳首にピアスしてるやつとか?」
「それも面白いかもね」
「全然、面白くないんだけど!」
義則の手に負える相手じゃない。
「やばいっていっても闇討ちとかつまんないことするやつらだから」
「そんな真似するやつらがいるのかよ!」
喧嘩は嫌いだけど喧嘩は一対一で正当なものだ。
「事情を聞きにいったほうがいいかもね」
「聞きにいくってどこに?」
「運営よ」




