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デートなう

「本当に来てくれたんだ! つばめちゃん! ゲームセンターで不良につかまってきたときも助けに来てくれたし! これって運命!?」


 ……は?


「えっと、もしかして、わからない?」


「運命が? それならわかる。これから一緒に乳首で洗濯ばさみで挟み合う仲になるのが、ね」


 笑顔で気持ち悪いこと言うな。


 というか、オレがわかってない?


 幼馴染なのに……。


 胸が痛くなるほど悲しい。


 今まで何でオレだと判断してたんだ。


「どんな運命が待っていてもそんな運命にはならないと断言します」


「未来は誰にもわからないさ」


 無駄に歯を光らせるな。


 相変わらず無駄にポジティブだ。


「とりあえず、ホテル行こうか」


「いきなり!?」


 まだ出会ったばかりなのに。


「え、早かった?」


「早いというか早すぎて『え、付き合ってもう一年くらい経ったっけ?』って思いました」


 マジかよといわんばかりの顔をすると、義則は後ろを向いて何かの本を読み始めた。


「ちょっと焦りすぎた。ここは恋愛本に従ってちょっとドキドキなところでデートしないと」


 あれでオレにバレないようにしているように隠れているつもりなのか。


「じゃあ、ドラゴンボール集めに行こうか」


「摩訶不思議アドベンチャー!? 読んでる恋愛本ってドラゴンボール!」


 初めてのデートでドラゴンボール集めに行くってなんだよ!


 上級者すぎる!


「いえ、そういうのはちょっと。もっと落ち着いた場所とかどうでしょう」


「落ち着いた場所……ナメック星?」


 どうやって行くんだよ。


「ドラゴンボールはもういいです。たとえば、映画館とかどうでしょう」


「いいね! ちょうど見たい映画があったんだ!」


「わたくしもです。『君に恋する五秒前』とかどうでしょう」


 『君に恋する五秒前』は学生向けの恋愛映画だ。


 正直、恋愛映画よりもアクション映画のほうがス聞けど、デートというならこれがいいとお姉さまが言っていた。


 今のオレはおしとやかなつばめだ。


 なるべくはそのとおりにしないと。


「それよりも『地獄のはらわた』なんてどう?」


 『地獄のはらわた』はアクションありのホラー映画だ。


 あまりの残虐さにR18に引き上げられたという経緯がある。


 どちらかといえば、オレは『君に恋する五秒前』よりも『地獄のはらわた』のほうが好みだ。


 というか、それオレと見に行く約束だっただろ!


 この野郎!


 怒りのあまり拳を固めていた。


 一発ぶん殴ってやろうか。


「あ、やっぱ、なしで。そういえば、これ親友と見に行くんだった」


「え」


 だらしなくも、ぽかんと口を開けてしまう。


「悪いけど別のものにしてもらっていいかな」


 お、覚えてた。


「そ、そうなんですね。な、なら仕方ないですね」


 や、やばい。う、嬉しすぎる。


 オレは火照った顔を見られないように義則に背を向けた。


「と、ところで、その親友という人はどんな人なんですか?」


「え、あいつかー」


 なんか言いづらそうだ。


「乱暴なやつでさ。基本はゴリラだな」


「あ?」


 怒りのあまり額に青筋が浮かんだ。


「りんごを片手で握りつぶしてりんごジュース作ったとか言うし、気合だけでハエを消し飛ばしたことあるし」


 りんごジュースはミキサー使うよりも早かったからでハエは弱ってたときに怒鳴ったら死んだだけで偶然だ。


「そ、それは気のせいじゃないでしょうか?」


「いや、そんなことはない! あいつはゴリラ! ゴリラの化身! 人間に滅ばされたゴリラ国のただ一人の生き残り!」


 この野郎! 好き勝手に言いやがって。


 もう我慢できない。


「てめぇ、ふざけ――」


 胸倉を掴もうと腕を伸ばしたそのとき、


「――ぃて!」


 飛来した何かが後頭部に直撃した。


 な、なんだ?


 振り向いたそこにはお姉さまが電柱の影から顔だけ出して見つめていた。



 その手には石が握られていた。


 唇が動いた。


 ――駄目よ――。


 義則に気づかれないよう声は出ていない。


 ふぅ、落ち着け。


 お姉さまの言うとおりだ。


「そ、そんなことはないんじゃないでしょうか」


 なるべく平常心でいたいが、つい言葉に力がこもってしまう。


「いや、そんなやつなんだよ! あいつは!」


 恨みでもあるのかよ。


 落ち着いてくると怒りの次にやってきたのは悲しみだった。


 なんで、オレこんなことしてんだろ。


 これほど苦労して、その結果が好きな人からの悪口だなんて。


 もう帰ろうかな。


 そう思い始めたが、


「でも、あいついいやつなんだよ」


 わずかに希望が芽生える。


「ほ、本当ですか?」


「よくバナナわけてくれるし」


「……そいつ、別の人では?」


 一度たりともバナナなんかわけてない!


「その子だって女の子なんですよ」


 オレは真剣な目で義則を見つめた。


 その目に義則は僅かにたじろいだ。


 しかし、すぐに義則は今までに無いくらい真面目な顔になる。


「それは知ってる。でも、俺は」


 その顔に思わず見惚れてしまう。


 い、いきなり真面目な顔になりやがって。


 く、くそ! し、心臓の音がやばい。


 さっきから変だ。


 妙に感情の幅が大きい。


 落ち込んだり、喜んだり。


 制御できない。


 心臓の音が更にどくんどくんと鳴り響いた。


「俺は――」


 義則が言葉を続けようとする。


 しかし、オレは耳に入ってこない。


 これはまずい。


 足元もふらついてきた。


「あいつのことが――」


 意識が狭まっていった。


 耐え切れなくなり片膝をついた。


「え!? だ、大丈夫!?」


 義則が心配そうに近づいてきた。


 言葉を止めないで。


 最後まで聞きたいのに……。


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