表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】夫と義母に娘を奪われ死んだ転生令嬢は、辺境伯に前世ごと溺愛される  作者: はなたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/28

第7話 前世の記憶

「な、ヘタクソだと?」



オリフタンは怒るのも忘れ、ただ、信じられないものを見るような顔をしていた。



「……そうよ、ヘタクソなのよ!」



私自身も肩で息をしながら、自分の口から飛び出した言葉に驚いていた。


でも、止められない。



「痛いって言ってる相手を押さえつけて、それで満足してるなんて最低よ!」



頭の奥で、誰かの声がする。



『たまには抵抗しないと』


『我慢しないで』



懐かしい。

そう感じた瞬間、頭の奥がズキリと痛む。



『でも、政人のこと嫌いになれなくて――』



この声は、誰――私なの?



見たことのない景色が、一瞬だけ脳裏を駆け抜ける。


明るい店内。氷の入ったグラス。

テーブル越しに、困ったように笑う女性たち。



「政人……」



息が乱れ、胸が苦しい。



「誰の名だ?」



オリフタンが眉をひそめる。

私は答えられない。



「そうか、なるほどな」


「な、なに?」


「ポーラディアに男がいたのか?」


「ち、違うわ!」


「他の男の名を呼びながら、俺を侮辱するとは」



怒気を含んだ声。



『他の男に色目を使うな!』



オリフタンの顔に、別の男の顔が重なる。


恐怖だけは妙に鮮明だった。

拒絶しても聞き入れてもらえない絶望。



――知っている。



私は、この不快感を知っている。



「愛花……!」



無意識に零れた名前に、自分で息を呑む。

なのに、その名前を口にした瞬間、涙が出そうになった。



私の中には、もうひとりの記憶がある。



彼女の名前は、愛花。



相手を怒らせないように。

波風を立てないように。



――私が我慢すればいい。



優しかったから。

真面目だったから。



そうだ、自分を責めてしまう人だった。



「私は、同じだなんていやよ」



黙って耐えるだけなんて、絶対にいや。

誰にも、自分の心まで踏みにじらせたりしない。



「生意気な女だな!」



オリフタンの声が低くなる。

その目には苛立ちが滲んでいた。



「母上の言う通り、大人しく従っていればいいものを」



ぞくり、と背筋が冷えた。



『母さんを怒らせるなよ』


『余計なこと言うなって』


『お前のためを思って言ってるんだ』



息が止まりそうになる。


嫌だ。

聞きたくない。



「私のお母様は、こう言ってたわ」


「は?」


「神の前では、あるがままに――」



愛花とアリアンディの根本的な違い。それは――。



「私は、自分の気持ちを大事にしたいわ!」



その瞬間。


脳裏に、白い光景がよぎった。


耳をつんざくブレーキ音。眩しいヘッドライト。肌寒い夜風。


そして――。



『あなたはもう、不要です』



女の声。

胸の奥が、ぐちゃぐちゃに掻き回される。



白い世界。

絶望の再現なんて、絶対にいや。



「繰り返さない!」



叫んだ瞬間、身体の奥から力が湧き上がった。


私はオリフタンの手を振り払い、よろめきながらベッドから飛び退く。



「アリアンディ!」



このまま、この男の思い通りになるのだけは嫌だった。

オリフタンの脇をすり抜け、私はドアへ走る。


背後で怒鳴り声があがった。



「待て!アリアンディ!どこへ行く!」



私には、前世の記憶がある。


でも、まだ頭の奥に霧がかかったようで、大切な何かが見えないままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ