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【完結】夫と義母に娘を奪われ死んだ転生令嬢は、辺境伯に前世ごと溺愛される  作者: はなたろう


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第19話 あるがままでいたい

マルゼンダ領の教会は、木造で重厚感がある。

どんよりした空のせいで、教会の鐘の音もどこか重苦しく聞こえた。



馬車を降りると、先に着いていた両親と兄が迎えてくれた。



「お母様!」


「アリアンディ、とても綺麗だわ」



お母様に抱かれ、柔らかな温もりと香りに、目頭が熱くなる。

家を出てから、まだ3日だなんて信じられない。



「若い頃の母さんにそっくりだな」



後ろから、お父様の能天気な声。



まったく。

誰のせいで娘が悲しんでいると思っているのか。


フンッと、鼻を鳴らして無視してやった。

そんな私を、クスっと笑いながら見ているのは、お兄様だ。



「父上。アリアンディは、まだ結婚に納得してないみたいですよ」


「しつこいところも、母さんにそっくりだな」


「あなた、何かおっしゃいまして?」



お母様の鬼の形相に、お父様は首を引っ込めた。



「マルゼンダ家はどう?辛い思いをしてはいない?」


「ええ、大丈夫。心配しないで、お母様」


「あなたは甘え下手で強がりだから心配だわ。本当に、私に似てしまったわね」



母娘で会話に花を咲かせていると、教会に不相応な足音と、カン高い派手な声が割り込んできた。



「まぁ、ポーラディア侯爵!ようこそおいでくださいました!」



マルゼンダ伯爵夫人とオリフタンが近づいて来た。



「お初にお目にかかります、マルゼンダ卿」



お兄様が品良くスマートに挨拶をする。



「名家ポーラディア侯爵家の跡取り、どんな豪傑かと期待してましたが、随分と優しい顔をしている」



オリフタンは、お兄様を嘲笑うように値踏みした。



「おかげさまで、縁談が多くて困っております」



お兄様は微笑みを浮かべたが、その瞳は笑っていない。

2人の間には、教会の冷たい空気が張り詰め、火花が散るようだった。



「優秀な妹を嫁がせ、我が家から得た支度金で家を立て直す。古臭い算段は上手くいきましたか?」



オリフタンは、さらに一歩踏み出し、兄の顔のすぐ近くまで身を乗り出した。



「オリフタン様、その発言は失礼ですわ。撤回してください」


「ふん。気丈の強さも妹に軍配が上がるのか」



私の抵抗など、まったく意に介さない。



「嬉しいですね」


「なんだと?」


「随分と妹を認めてくださっているようで安心しました」


「認めてなど……」


「アリアンディは、領地の民を誰よりも深く愛し、民のために尽くせる人間です。マルゼンダ卿が仰る通り、私よりも優れた資質を持っています」



お兄様は一歩も引かず、オリフタンの視線を受け止めたまま、口角を上げた。



「マルゼンダ伯爵領の発展にも、きっと寄与できるでしょう。アリアンディの活躍を大いに期待しています」


「当家では女の口出しは不要だ」


「それは失礼しました。マルゼンダ卿が妹よりも優秀であるなら、いらぬ心配ですね」



オリフタンの顔が、怒りで青筋を立てた。



「減らず口だけは兄妹そっくりだな!いいか、アリアンディ。お前はお飾りの花嫁、大人しくしていることだ」



吐き捨てるように言い放つと、踵を返して去る。

その背中には、明らかに敗北感が漂っていた。



「お兄様、相変わらずお口は達者ですわね」


「思ったままを言っただけさ」



そのとき、モズリンがそっと近づいてきた。



「皆様、そろそろお時間です」



モズリンが手にした木製のトレイには、一輪の赤いガーベラがあった。



お母様はガーベラを手に取ると、私を見つめて微笑んだ。



「娘の幸せは母の幸せ。あなたの幸せを、誰より願っているわ」



お母様が私の頬にキスをしてくれた。

その深い愛情に、再び胸が熱くなる。



そして、母から娘へ、赤いガーベラは手渡される。



後ろでは、モズリンが涙を指で拭っているのが見えた。



「神の前では、あるがままでいて」


「はい、お母様」



この結婚が望まぬ形であっても、自分を偽らず、ありのままでいること。



「私の幸せ……」



真っ赤なガーベラを手に、白いドレスを身につけ、愛のない、形式だけの結婚を誓うのか。



見上げると薄曇りのどんよりした空。今にも雨が降りそうだ。

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