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【完結】夫と義母に娘を奪われ死んだ転生令嬢は、辺境伯に前世ごと溺愛される  作者: はなたろう


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18/28

第18話 結婚式の朝

どんよりとした厚い雲が空を覆い、肌寒い空気が漂っていた。



朝食もそこそこに、髪を洗い身を清め、いつもより時間をかけて化粧をする。



「うっ!」



これ以上ないくらいコルセットで縛り上げられたあと、真っ白なウェディングドレスを身に纏った。

苦労した挙げ句、ようやく花嫁姿になった私。



豪華なレースがあしらわれたシルクのドレスは、高価な生地で仕立てられている。



「とてもキレイです」



モズリンが目に涙を浮かべ、純粋に心から褒めてくれた。



ウェディングドレスを着るのは2度目ね……。



愛花と政人の結婚式、思い出せるだろうか?



記憶の奥を辿ってみる。



愛花は結婚式を楽しみにしていた。

それなのに、幸せ絶頂であるはずの日に姑が言った言葉。



『嫁が片親だなんて、やっぱり恥ずかしいわね』



父は他界していたが、母は愛花を大学まで入れてくれた。恥じることなど何もない。

それなのに、この日、夫となる政人はこう言った。



『披露宴をしない方が、世間体として恥ずかしいだろ』



母の悲しそうな顔は、転生した今も胸を締め上げる。



そして、何も言い返せなかった自分にも腹が立つ。

あのとき、引き返していれば、別の幸せがあったかもしれないのに。



「あらあら、綺麗な花嫁さんだこと」



マルゼンダ伯爵夫人の声に、ハッと現世に戻る。



「ねぇ、オリフタン」


「――まぁ」



え、それだけ?

お世辞ひとつ言えないなんて、社交性がなさすぎるわ。



「さぁ、教会へ向かいましょう」



オリフタンは、花嫁より豪華で煌びやかに着飾った母親の手を取ると、一番豪華な馬車に乗り込んだ。

当然のように扉は閉まり、私を残して早々に出発してしまった。



まったく、誰と誰の結婚式なのか。



「アリアンディ様、こちらです」



モズリンが手招きする。



ふと振り返り、広い庭を見渡す。

昨夜、私を救い出してくれたカシスタンの姿はどこにも見えない。



「カシスタン様がいませんね」


「先に行かれたのでしょうか?」



モズリンに促されて、馬車に乗り込む。



「行ってらっしゃいませ」



年配のメイド長がにこりと微笑み、私を見送ってくれた。



馬車はコスモスが咲く丘を下ると、ポプラ並木へと入った。

川を越え、キレイな景色が流れて行く。



通りの家々は色鮮やかな花飾りをつけ、領主の息子の結婚式をお祝いする様子が伺えた。

通りすぎる人々の好奇と羨望の視線は、白いドレスを纏った私に向けられる。



子供が私に手を振っている。



「お姫様だぁ!わーい、結婚おめでとう!」



無邪気な声に涙が出そうになる。



そうね、結婚式はおめでたい日なのよね。

それなのに、こんなにも胸が苦しいなんて……。



「お嬢様、よく聞いてください」


「モズリン?」



向かいに座るモズリンの顔は、いつになく真剣だった。



「屋敷の者から聞きました。マルゼンダ伯爵夫人は、懇意にしている貴族の次女を、本当はオリフタン様の結婚相手にしたかったと」


「どういうこと?」


「娘のようにかわいがっているお嬢さんだそうです」



外から差し込む曇り空の淡い光が、彼女の表情をどこか厳かに見せる。



――あれ?どこかで聞いたような話。



前世の記憶なのだろう。

だけど、霞が買って見えない。



「今なら、まだ間に合います」



私の手をそっと包みこむ。あたたかく優しい手。



「幸せな結婚生活は、望めないかもしれません……」



モズリンの薄い茶色の瞳が潤む。



「アリアンディ様が望むなら、逃げ出すこともできます」


「モズリン、あなた――」


「馬車の御者には、既に話をしました。まずは、私の実家に身を隠しましょう。狭い家ですが、精一杯のおもてなしをします」



モズリンが前方をちらりと見た。

それに応えるように、御者の背中が小さく揺れるのが見えた。



「どこまでも、おついて参ります」



愛花にも、モズリンのような、心の支えとなる友人はいたのだろうか?



「ありがとう」



モズリン。

あなたに出会えたことに、感謝をするわ。



「もし、また次に転生したら、今度は私がモズリンを支えてあげるわ。必ずよ、約束するわ」



握られた手を、私が強く握り返す。



「なんのお話ですか?」


「ふふ、モズリンが大好きっていう話よ。だからこそ、迷惑はかけられないわ」



逃げても追われる身になるだけだ。

実家であるポーラディア領にも悪影響が出る。誰も幸せにはならないだろう。



「このまま、教会へ向かいましょう」



御者にも伝わるよう、大きな声で言う。

返事の代わりに、馬車のスピードが加速した。



夫に愛されず、夫を愛することができなくても。

泣いて逃げて、負ける人生は一度でいい――。

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