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異世界旅行を終わらせる為に頑張る男の冒険譚  作者: Latte


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5 初の冒険

 翌日の朝。

 爽やかな風、美しい鳥のさえずり、そして険しい山道の中を二人は歩いていた。


 朝早くに目が覚めた二人は冒険者協会に行き、依頼を受けてきた。


「こんな山の中に入るなんて思わなかったんだが……」

「お前が受けたものだぞ」


 そう、これはセスが受けた低ランクの依頼でギルはそれに付き添っているだけだ。護衛の依頼としてもちろんついてきてるが、ガイドとしての役目のほうが大きい。

 そして今はスネッグと呼ばれる毒蛇の捕獲に来ている。スネッグが多く生息するところに向かっているが、なんせ森の中を歩いてるから体力がどんどん削られる。息を切らすほど体力が無いわけでもないが、身軽に動ける体でもない。

 草で足元をとられる中、表情一つ変えずに涼しげな顔で歩き続けるギルにセスは浮遊魔法を使おうか何度も迷った。でも結局は魔法による疲労があるから疲れることに変わりはなくて諦めた。

 そんな葛藤の中一時間ほど森を進むと、微かに水の流れる音がした。


「川が近いのか」

「耳がいいな」


 会話をしながら進んでいると不意にセスは頭上の木を見上げた。それとほぼ同時にセスの顔の上ギリギリにギルの手が置かれる。

 一歩下がってギルの手を見ると小さな蛇が掴まれていた。上から降ってきた蛇を上手く捕まえている。


「これか」

「嚙まれそうになってた奴の第一声がそれなのか」

「気づいたからな」

「一人なら噛まれただろ」

「でも今は君がいる」


 そんな言葉に気恥ずかしさを感じ、固まってしまうギルを他所にセスはスネッグの観察をしていた。

 首元をちまっと掴まれジタバタ暴れてる蛇は僅か5㎝ほどの大きさしかない。なのに平気で人を殺せる猛毒を持っているとのことだ。

 数秒悩んだ末に人差し指を蛇の口に近づけるとギルが素早くもう片方の手でセスの腕を掴んだ。


「お前は馬鹿なのか!?」

「いや気になって」

「死ぬって説明しただろ!」

「そんな大声出さなくても」


 腰につけてるポーチから透明なガラス瓶を取り出してギルに差し出す。スネッグを中に入れ栓をしっかりして観察を続けるも、スネッグはセスのほうに向かって威嚇していた。


「気性荒いな」

「だから厄介なんだ。山中にしか生息してないし人里にはいかないから魔物としてのランクは低いが、いきなり襲われる」

「コイツ食えんの?」

「く……その発想は誰もしないと思うが」


 引いた顔で見てくるが、セスは至って真面目だ。


「ま、小さいから食っても腹の足しにはならないか」

「お前の居たところでは食ってたのか」

「種類によるが、美味いものもいたから食ってたな。あと酒に漬けたり」


 ありえないとでも言わんばかりの表情に苦笑いする。食べない人からするとこういう反応をよく貰うものだ。

 

「言っとくがコイツはやめとけ、毒があるからな」

「わかった。じゃあ採取だけしてとっとと帰ろう」


 残念だがギルが嫌がるから今回はやめておこう。



 

 そこからさらに数分歩くと、ギルが突然足を止めた。五メートルほど前にある一本の大きな木を見上げると、そこには大量のスネッグが密集していた。


「これは……気持ち悪い」

「率直な意見だな」


 うねうねと小さいものが密集していたらそれはもう気持ち悪いとしか思えない。小さい生態系故、密集して生きているのは理解できるが事前に聞いて想像していたのと違ったもので少しだけ残念に思う。

 しかも、問題はここからだ。捕獲はたったの五匹でいい。なのに視線の先にいるのは猛毒を持ったスネッグが百匹を余裕で越えている。

 これが討伐だったらどれほど楽なものか。こんなものが低ランクなら上のランクはもっと危険ということだ。

 だがセスは魔法使いだ。危険なんて微塵もない。


「どうするつもりだ?手を貸すか?」

「いや、依頼は僕のだし大丈夫だ」


 小さい空瓶を四つ地面に置いて、密集してるスネッグから孤立してるやつを探す。

 その場で指をひょい、と動かせば四匹のスネッグが宙に浮いて空瓶に収納される。


「何度見ても魔法って便利だな」

「ちょっと工夫はいるけど僕は魔法が得意だからな」


 瓶をポーチの中に入れると、ギルの視線が釘付けになる。


「空間魔法って存在してないのか?」

「存在はしているがとても貴重なものなんだ。白銀貨十枚ぐらいはする」

「ま、そうだよな。僕のいた世界でもそうだった」

「じゃあ元々持ってたものか」

「いや、それはここに来る前に部屋に置き去りにされて持ってこれなかったから昨日の夜に付与したんだ」

「あぁ、だから遅くまで起きてたのか」


 亜空間魔法が存在してないなら人前で使うわけにもいかないから空間魔法にして正解だった。

 冒険者といえ、大きなカバンを持ち歩くなんてことはしたくない。


「ここまで来たついでに水浴びしてくか?」

「……、うん」


 あからさまにしょぼくれたセスは仕方ないと心を決め、水の音が聞こえたほうに足を進める。

 すると、少し開けた空間に綺麗な川があった。

 近づいて深さや水質を確認するが何も問題ない。水温は少し冷たいが気温が暖かいからそこまで長時間じゃなければ大丈夫そうだ。

 先に衣類を脱いで川に入ったギルバートは頭まで濡らしている。

 セスも服を丁寧に畳んでからゆっくり川に足をつけ、水を浴びる。

 亜空間から石鹸を取り出して、体を洗っているとギルに見られていることに気づく。


「石鹸使うか?天然素材で使ってるから川に流しても大丈夫なものだ」

「そんなもんまで持ち歩いてんのか」

「髪を洗うシャンプーもあるぞ」

「石鹸と何が違う」

「石鹸で髪を洗うと痛むだろ」

「だからお前の髪はこんなに綺麗なのか」


 長い髪を手に取り、眺めるギルにセスは思わず笑う。セスはシャンプーを手に取りギルを屈ませると頭につけ泡立てた。


「目に入ると痛いから閉じてた方がいいぞ」


 素直に目を閉じるギルをみてセスは上機嫌にギルの頭を洗う。ギルは短髪だからすぐに手入れができて楽そうだ。

 魔法で水を掬い、優しく流して声をかければ軽く頭を振って水を落としていた。

 

「さっぱりするなこれ」

「だろ?」


 自分の長い髪の毛も洗い、亜空間からタオルを取り出してすぐに川から出る。

 服に着替えている間、ギルの視線はセスに釘付けだ。あまりに見られるものだからセスはもう一枚タオルを取り出して顔面に投げつけた。

 難なくキャッチされたが視線は逸れた。


「君は男の体を見る趣味でもあるのか」

「あるわけないだろ!」

「君の視線があまりにも熱烈だったからな」

「それはお前の体に……!」


 にや、と笑ったセスをみて弄ばれたことがわかったギルは怒りながら川から上がった。

 でもギルの頭の中からはセスの体が頭から離れなかった。

 正確に言えばセスの体――背中の右腰に描かれた模様だ。

 綺麗な体には似合わない大きなドラゴンが潜んでいた。まるで生きているかのような迫力に視線が奪われる。


「彫ってるのか」

「あ~……、そうだ、彫ったんだ」


 出会って初めてセスが言い淀み、すぐに嘘だと気づくがセスの困ったような何とも言えない表情にギルもそれ以上何も追求しなかった。


「(訳アリか。でもまだ俺に話すほどの信頼はとれてない)」


 まだ出会って二日だ。無理に話の距離を詰めるのも悪手だし、話したくないことを詰められるのもいい気はしないだろう。

 ギルは空気を変えるように、バジ、と頬を手で叩くと最後の装備、剣を帯刀する。


「協会に戻って依頼達成報告するぞ」

「あぁ、そうだな」











「スネッグ食えるぐらいなら虫食えるのか?」

「虫……?」

「そんな顔しなくても」

「君は僕のことなんだと思ってるんだ」

「虫美味いのに」

「……」

「その顔やめろ」




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