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異世界旅行を終わらせる為に頑張る男の冒険譚  作者: Latte


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6 逆らえないもの

 四日目、二人は地下迷宮と呼ばれる洞窟の入口に立っていた。

 ちなみに三日目は簡単な依頼を一件片付けたのと、魔導書を探しにいろんな書店をまわって一日が終わった。いい収穫はなかったが迷宮の宝箱から魔導書が出てくることがあると聞いて今日ここにいる。

 入口には複数の冒険者パーティーがいるみたいだが、全員がセスとギルを横目で見ていた。


「(どうして鬼人が貴族連れているんだよ)」

「(厄介な貴族の依頼か?)」

「(貴族?どこかの国の王族じゃないよな)」

「(貴族だとしてもあの鬼人が護衛依頼を受けるほどの人物って何者だ!?)」


 いろんな思考が飛び交って冒険者がヒヤヒヤしながら様子を伺っている中、二人は迷宮について話し合っていた。

 迷宮にはいろんな種類の魔物、罠があるらしい。それらを攻略しながらボスを倒すということを最終目標にするところらしい。


「なるほど、ダンジョンだな」

「ダンジョン?」

「前にも似たようなものがあった」

「潜ったことは?」

「ある」


 ならある程度は大丈夫そうだな、とギルは説明を省く。

 二人が洞窟の中に入ろうとしたとき、後ろから男が大声をだしてギルを引き止めた。同時に振り向き、視線が合うと声をかけた男はセスをみて固唾を飲み込む。

 そんな様子を見てギルは呆れたような視線をセスに送った。


「何の用だ」

「迷宮潜るんだろ?その……貴族様なんも装備してないが貸してやろうか?」


 最後だけ小声でギルに話す男は親切心で声をかけたんだろう。

 そこでギルもセスの恰好を見る。魔物の素材も使ってない普通の服に、腰に一つだけポーチをぶら下げてるだけの男が立っている。確かに迷宮に潜るなら何かの素材を使った服がいいのかもしれないが、今ここには護衛としてギルもいるしセスも決して弱くない。

 

「問題ない、気にするな」


 そう告げてギルはセスと共に迷宮に入っていった。

 その光景を見て男たちは唖然とする。


「大丈夫かな」

「あの鬼人が護衛なら大丈夫なんだろう」

「それかあの貴族様が冒険者装備なんて着たくないって言ってるのかもね」

「貴族なら言いそう~」


 そんな男たちも後を追うように迷宮に入っていった。






 迷宮の一階層には初心者らしい駆け出しの冒険者がちらほら見える。

 そんな人たちを抜かして二人はどんどん進んでいく。


「ここは三十階層まである。五階ごとに転送できる魔石があるが使うか?」

「いきなり最下層まで行けるのか?」

「今は俺がいるからできる。一度魔石に触れれば登録できるからしたいなら飛ぶことできるが」

「せっかくの初ダンジョンだ、全部見る」

「地図はあるか?」

「確認してきたから大丈夫だ。行き止まりになる無駄な場所にはいかない」


 そういうセスは手元に地図を持たない。そんなギルの疑問を汲み取ったのかセスは手をぐっと握ったあと空中に手を翳す。

 するとギルの視界に宙に浮かぶように図面が現れた。


「魔法ってほんとすごいな」

「便利だよな、都度マッピングできるから迷うことはない」


 振り払うようにパッと地図を消すと、セスは迷いなく足を進める。ギルも何度もこの迷宮に足を運んでいるが最下層しかいかなくなってからは地図なんてものは覚えていない。

 たまに出てくる魔物をギルが倒していき順調に足を進めると五階層で台座に固定された魔石があった。

 触れるとそれは淡く光り、登録ができたようだった。


「そういえばセーフゾーンってあるのか?」

「あるがここの迷宮は十階とニ十階だけだ」


ポーチから時間を確認できるものを取り出すとまだ迷宮に入ってから一時間も経っていなかった。


「このままいけば今日中に最下層まで行けそうだな」

「そうだな」


 2人の足取りが少し止まり始めたのは二十階層まで降りた時だった。

 罠の数がとても多く、解除やゴリ押しで進むこともある。それに魔物のレベルも深層部に近づくほど上がって行った。それでも冒険者とたまに会うからこの迷宮に入ってる冒険者はかなり多いのだろう。


 少し前を歩いていた冒険者が床のトラップスイッチを踏み、左右から矢が飛んできていた。避けてはいたが、数本当たっていた。防具のところに当たったのか流血は見えない。

 そんな冒険者の横をなんも無い顔して通り過ぎる。

助けろよ、みたいな目線を飛ばした冒険者はギルとセスの存在を認識するとすぐに目を逸らして何事も無かったかのように振舞った。


「あのトラップ引っかかるヤツいるんだ」

「だからあんなことになってんだろ」

「(聞こえてるんだけど!?)」


 後ろで冒険者達が怒りを覚えるが鬼人がいる手前そんなことを言えず大人しく二人の後姿を見送る羽目になった。




 二十四階、二人は小部屋にある一つの宝箱の前で数分足を止めていた。


「ミミックだと思うか?」

「しらん」


 迷宮の宝箱は開けるまで罠かどうか確かめる術がない。魔力を調べても、ミミックと本物の宝箱に差はないのはこの世界において常識だった。つまり、五分五分。


「ちなみにここのミミックってどういうのなんだ?」

「確率が高くて無難なのはミミックに食べられることだな」

「他の確率は?」

「魔物がいきなり湧いて襲い掛かってくるとかだな。噂だとどこか知らないところにワープさせられたり、ボス部屋まで行ったとかは聞いたことがある。あとは身体的な状態異常」

「ま、なんとかなるか」


 考えても無駄だと思ったセスは宝箱の前に膝をつき、縁をなぞるように触る。銀メッキで装飾された宝箱は本物と質感は変わらない。

 軽く力を入れて、宝箱を開けるとミミックでは無かったようで何も起こらなかった。中を覗くとそこには一枚の畳まれた古い紙が入っている。


「なんだそれ」

「これしか入ってなかった」


 かなり年季のはいってる紙は簡単に破けてしまいそうで慎重に広げていく。そこそこ大きい紙をギルと支え、書かれているものの全貌がようやく見えた。


「これは……」

「なんて書いてあるんだ?」


 共通語ではなく、どこかの国の言語に見える。所々に書かれている魔法陣の図面は紙の一部が欠けていて解析が困難だ。劣化による穴の開き方に人の手は加わっていないことが見て取れる。

 それを確認してセスは素早く紙に状態保存の魔法をかけて折り畳む。


「僕がもっててもいいか?」

「あぁ、俺が持っててもただのゴミだしな」


 ギルはそういうがセスにとってこれは宝にもなりうるし危険になるものだと認識していた。

 セスも言語が読み取れずなんて書いてあるのかは一切わからない。でも魔法に関わって生きてきたからこその直感がある。古く昔の魔法は呪術とも呼ばれることがあった。紙に残される古代の魔法なんて殺傷能力の高い魔法か呪いに近いものしか存在してない。

 だとしてもこんなことをギルに言うつもりもない。言ったら燃やされて捨てられそうだし。


「いいもんなかったな。さっさとボスまでいこう」

「そうだな」


 そこから寄り道することなく進んだおかげであっという間にボス部屋までたどり着いた。

 ボス部屋前の空間には壁一面に壁画が書かれていて神秘的な空間が作り出されていた。


「今ボスやってるヤツいるみたいだからしばらく待つことになる」

「そんなのわかるのか」

「扉しまってるからな」


 どうやら入れるときは人が入れるかどうかの隙間が開いてるらしい。そして本来開いてるはずの扉が閉まっているからボスに挑んでいる人がいるというのが分かるらしい。


「ここのボスは制限時間があるからそんなに待たないと思うけどな」

「そういうのもあるのか」


 壁画を眺めながら答えると、ギルから止められる。


「その壁画には意味がないって言われてるぞ」

「意味がない?」

「あぁ。一番左に書かれているのがこの階のボスなんだがその絵の順番通りにやっても特に何も起きなかった。迷宮ができてから何度も挑戦してるやつがいるが普通にボスを倒してアイテム貰って終わりだ」

「順番ってこの今の壁画の流れか?」

「そうだが」


 セスが指を頭にあてて考え込んでいる姿をみて、ギルはすぐに何かがあると察知した。ギルはこの数日セスと過ごして気づいたことがある。今みたいに悩んでる仕草をするときは大体俺の常識から逸脱した指摘をしてくるのだ。

 セスが考えているということは今の話のどこかが間違っていて、違和感を探っているんだろう。

 何かを探りながら壁画を見るセスをギルが眺めていると重い扉が開く音がして複数人の冒険者パーティーが扉から出てきた。


「はー、ここのボス地味にやりづらいよな」

「でも近くの迷宮の中では1番簡単だし楽だよな」

「人がいなきゃもう1回ボス行っても……うわっ!」


 1人の冒険者がギルを見て叫び声をあげた。

 ギルがそのパーティーを見るとみんなが顔色を一気に悪くした。そしてギルの背後にいるセスの後ろ姿を見て目を見開いている。

 とても感受性豊かで表情筋が忙しそうだ。


「おい、部屋空いたぞ」

「わかった」


 すれ違う時に緊張してる冒険者を一瞥するも、すぐに視線を逸らしたセスはもうそこに関心はない。


 部屋の扉が少しだけ空いているが、魔法がかかっているのか隙間からは闇しか見えない。


「開けるぞ」


 ギルが重そうな扉を開け、中に入るとすぐに背後の扉が重く閉ざされる。

 広く薄暗いフィールドの中央には人型悪魔の形をした像が建っていた。跪き、何かを乞うように手を握りしめ上を向いて口を開ける姿は悪魔らしくない。


 その像の背後には2m程の大きな砂時計が置かれている。ギルが言うにはあの砂時計を回した瞬間からボス戦が始まるらしい。


「回すぞ」

「待ってくれ、いつもどうやって回してる?」

「普通に手で」

「そういうことじゃなくて、どっち向きに何回回してる?」

「あ?適当に気が向いた方向に反対にするだけだが」

「右に二回転、左に一回転と半分、更に右に三回転して最後に横向きになるようにしてくれ」

「それだと砂が落ちないけどいいのか」

「でもそう書いてあったし」


 主語がないがギルにはそれが壁画のことだとすぐに分かった。ならば文句を言うまでもなく従うまでだ。

 重い砂時計を軽々と回していくギルは最後、指示通り横向きに設置する。すると床下から大きな石を引きずるような音と立ってるのも難しいほどの揺れが始まる。


「何が起こってる!」

「大丈夫……たぶん」


 しばらくして揺れが収まり、落ち着いたと思いきやいきなり砂時計がひとりでに回り始める。

 カチっと小気味のいい音が鳴ると側面の壁がスライドして複数の魔物が湧き出てきた。砂時計はいつの間にか落ち始めていてカウントダウンが始まっている。


「やっと見慣れた光景になったな。何か気を付けることあるか?」

「いや、ひとまず魔物を片付けよう」


 ギルが大きな剣で次々に魔物を薙ぎ倒していく。セスは支援をする形で背後を狙ってくる敵や飛行魔物を倒していく。


「(実質これが初めて一緒にした戦闘だが今までで一番戦いやすい)」


 ギルは感心する。痒い所に手が届くといえばいいのだろうか。目の前の魔物にだけ集中して戦えるのはとても楽だった。戦うことは好きだがわざわざ苦労してまで戦いたいと思うほどでもない。

 そして最後の敵の首を刎ねると砂時計が止まる音がした。


「これで終わりか?」

「いや、まだある」


 セスは死んだ魔物の血を手につけて悪魔の像を中心に置くように地面に模様を描き始めた。


「何してるんだ」

「封印を解く陣を書いてる」

「封印?」

「あぁ、この悪魔本物の悪魔だと思うぞ」

「なっ……像じゃ無いってことか?」


 ギルは驚きを通り越して呆れたようにため息をつく。嘘だとは思っていないがあまりにも突拍子がなくて受け入れられない。


「部屋の外にある壁画は順番がバラバラなんだ。十階と二十階のセーフゾーンにも壁画があっただろ?あれを含めて順番を入れ替えないといけないんだ」

「んなもんよく見てたな」

「やけに強調されていた気がしてたまたま覚えていたんだ」

「で?その順番通りにやったら封印が解けると?」

「あぁ。でも行き止まりだからと行ってない道もあるからこれが本当にあってるかはわからないけどな」

「仮に合っていたとしてこの封印を解いたらどうなるんだ?」

「壁画には新しい道……つまり更に下に行ける階層があるって描いてた」

「とんでもないこと言ってる自覚はあるのか?」

「??」


 むしろ喜ばしいことじゃないか、とセスは思うが迷宮がここに突然現れてから数年経っているのだ。その迷宮が冒険者なり立ての新人、しかも明らかに王族か貴族にしか見えない男、その上貴重な魔法が使える男。こんなにいろんな要素を詰め込んだヤツが目立つともっとやばい。

 目立ちたくないと言っておきながらなぜそんな大事になりそうなことを平然とやるのだろうか、とギルは考えるのを放棄したくなった。

 だがここまで来たらやるしかないし、これが成功したなら初めてのボスと戦えることになる。


「できたぞ」


 地面には血で描かれた魔法陣が大きく存在感を放っている。

 セスが魔物の首を切り落とし、悪魔像のそばに立つと開いてる口に向かって血を流し込んだ。


「条件はこれで、」


 言葉を言い切る前にギルはセスの腕を引いて抱き寄せ、陣から退いた。


「おや、これに反応できる人間がいるとは」


 顔を上げると、像ではなく悪魔が立っていた。姿は像と全く変わりはないがとんでもない威圧を放っている。


「悪魔……ヴァンパイアか」

「ふむ、封印を解いたのは君だね。よくも酷いものを口に入れてくれたな」

「血ならなんでもいいだろ」

「できれば口直しに君の血を貰いたいんだが」


 舌なめずりをしてセスを見る悪魔に、ギルはセスの前に立ち姿を後ろに隠す。だがセスはギルの腰を軽く叩き「大丈夫だ」と言った。


「僕の血なんて君にあげないよ。君好みじゃないし」

「(そういう問題かよ……)」


 気が抜けるような返事にギルは思わずツッコみたくなるが我慢した。


「君みたいな高貴な血滅多にお目にかかれないからね」

「わかってるなら諦めるんだな」

「じゃあお隣の”人間”でもいいけど」

「それもだめだ。僕が封印解いた理由は血を渡すためじゃない」


 スゥ__とセスが目を細めて悪魔を見つめると悪魔の雰囲気が一変した。ギルにはセスが何をしたのかわからなかったが間違いなく自分の知っていい領域じゃないことは雰囲気で察した。


「__、私はここの迷宮管理を任された悪魔だ」

「悪魔が迷宮管理……、君なんかやらかしたの?」

「悪魔のことをよく知ってるみたいだね。その通り、ちょっとした罰を食らっていたんだが君のおかげでその罰も今日で終わりだ」

「それで?何をしてくれるって?」

「ただの案内人だよ、最下層までの最短距離をね」


 悪魔がそう言うと、セスはギルの顔をちらっと見た後に頷いた。


「じゃあ案内は任せた」

「おい、いいのかよ」


 ギルは思わず口に出すが、セスはむしろ安全だと答えた。


「迷宮で案内人がつく理由は一つだ。この先の道はボス部屋にたどり着かせる気がない所がほとんどだと思う」

「正解だ。その道を私が簡単に案内してやるってこと」

「……まぁ俺としてはボスと戦えればなんでもいいや」


 ギルは思考を放棄した。セスと関わってから日常が当たり前じゃないことの連続だ。

 この男の雰囲気に飲み込まれたら終わる。








 悪魔とセスの言った通りボス部屋に辿りつかせる気のない道しかなくてギルは体力ではなく気が持っていかれた。

 

 あの後、地面に階段が現れて足を進めると石垣の螺旋階段が地下深くまで続いていた。螺旋階段から下を覗くと闇しか見えず相当深い地下だと想像つく。

 明かりすら無かったが悪魔が魔法を唱えると一気に明るくなり、見やすくなる。

 数十分かけて降りた先には扉があり、その中に入るとそこそこ広い空間に出た。部屋の8割程は足場に水がたまっていてその周りを囲うように足場がある。

 いわばプールみたいなものだが、その部屋の壁にもよくわからない壁画がたくさん描かれていた。


「これも封印か?」

「これはおそらく謎解きみたいなものだ。攻略手順が描いてあるんじゃないか?」

「よくわかったね」

「部屋の構造的になんとなくわかる。どうせ部屋いっぱいに水が溢れて死ぬか迷宮から排出されるんだろ」

「後者が正解」


 迷宮えげつない。ギルはそう思うが本来の迷宮はほとんどがこうあるものなのだ。つまりギルが見ていた迷宮はまだ上辺だけということ。

 悪魔がまたもや何かを唱えると、正規の道が簡単に開かれる。


 そこからもいろんな罠のある部屋に行ったが簡単に道が開かれて遂には本来のボス部屋までたどり着いた。

 登録用の魔石が丁寧に置かれていてギルとセスはそれに触れる。これでいつでもこの部屋前に直通で来れるようになったわけだ。


「さて、案内の役目は終えたから私はこれで失礼するよ」

「迷宮の管理はどうなるんだ?」

「今までと変わらないさ。ここまでの道も上の魔物を倒せばここの道が開かれるようになる」


 悪魔はセスの手をさりげなく取り、手の甲に唇を落とす。


「またの出会いをお待ちしております」

「随分と悪魔らしくない言葉だな」


 悪魔は微笑んで忽然と姿を消した。セスは軽く息を吐くとギルに向き合った。


「休憩はいるか?」

「いらない」

「じゃあボス戦と行こうか」


 








 冒険者協会でリーエンがいつも通り業務をしていると、とある冒険者グループが走って受付カウンダ―にやってきた。


「どうかしましたか」

「はぁっ、は、き、鬼人と、貴族の兄ちゃんが……!!」

「落ち着いて。まずは息を整えてください」


 冒険者の男が息を整えてようやく話せるようになると状況説明を始めた。


「地下迷宮のボス部屋に鬼人と貴族の兄ちゃんが入っていったんだ」

「はい?あの方は今日初めて迷宮に……いえ、続けてください」

「俺らもボス行こうと部屋前で出てくるの待ってたんだけどよ、時間過ぎてるのに出てこないし迷宮全体で大きな地震もあったからなにかトラブルあったんじゃないかと思ってな」

「仮にも鬼人がいるのだからそんなトラブルにはならないはずですが」

「でも迷宮内で地震なんておかしいと思わねぇか?」


 その男の発言にリーエンも確かに、と納得はする。今まで迷宮全体が揺れる地震が起きたのは聞いたこともない。

 

「迷宮にいる方々を外に誘導しておいてください。Aランクの冒険者を連れて向かいます」


 リーエンが協会職員に状況を話すと一気に騒がしくなり対応に追われた。



 地下迷宮にたどり着いたのは報告を受けてからすでに数時間が経過していた。迷宮の入口にはかつてないほどたくさんの冒険者が集まっている。

 迷宮の変異で魔物が外にあふれ出してくる魔物進行を懸念して集まってくれた冒険者がほとんどだろう。


「中に冒険者はいますか?」

「ボスやってる二人以外は誰もいない」

「あれから地震はありましたか?」

「いや、最初の大きな揺れ以外は何も」

「そうですか……」


 リーエンは少し考えた後に周りを見渡して少し声を荒げる。


「Aランク冒険者の方、集まってください!これから私たちと共にボス部屋の前まで__!!」


 リーエンだけでなく周りにいる冒険者全員が迷宮の入口をみて唖然とした。


「ん?」

「なにしてんだ、祭りでもすんのか」


 何事もなかったかのように帰ってきたセスとギルに周りの冒険者はざわざわと動揺を始める。リーエンはすぐに二人に駆け寄った。


「お二人とも無事ですか!?」

「見ての通りだが」

「ボス部屋に行ったっきり帰ってこないとの報告が上がりまして」

「ん?俺たちが下った後ってボス部屋開かないのか?」

「今回だけだと思うぞ。今後階段を使ったらボス部屋が開く仕組みになるはずだ」

「すみませんが状況説明を」


 セスとギルは同時に顔を合わせてお互いにじっと見つめあう。そして折れたのはギルだった。


「はぁ、俺よりお前のほうが……チッ、新しい階層を発見した。その探索とボスの攻略まで済ませてきた」

「済ませっ……あの、嘘ついてるとは疑わないんですが攻略方法についてなど一度きちんとした場でお話しても?」

「いいか?」

「僕はかまわないよ。喋れることなんてほとんど無いと思うけど」

「(喋っても理解が追い付かない、が正しいけどな)」


 心底リーエンに同情するギルは周りの視線にうざったく思ったのか睨みつける。すぐに視線を反らす他の冒険者だが、今の会話は近くにいた人には聞こえているだろう。疑う声や嘘だと嘲け笑う人もいる。

 だがセスもギルもそこには一切関心を示さない。


 場を収めるため協会職員が冒険者を誘導する中、二人はリーエンに用意された馬車の中に入り、協会に戻った。





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