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異世界旅行を終わらせる為に頑張る男の冒険譚  作者: Latte


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4 魔法の基礎

 街並みを探索し、手持ちの宝石を硬貨に変える。

 必要な衣類を揃え物価の価値観をギルとすり合わせたセスは今小さい書店に来ていた。


「おじいさん、魔導書は置いてるか?」

「う、うちにはこの2冊だけです」


 貴族だと勘違いしたおじいさんは震える手でセスに本を手渡した。軽く中身をパラパラと捲ったセスは銀貨五枚を手渡す。


「足りるか?」

「た、足りすぎるぐらいです……!その魔導書は銅貨三枚程度の価値でしょう」

「却下だ。この魔導書はそんなに安くない」


 入口のドアにもたれ掛かっていたギルバードはそれを見てため息をつく。


「魔導書なんて何に使うんだ」

「ただ知識を取り入れるためのものだ。ついでに聞くが魔法使いが希少なら冒険者は怪我をしたときどうするんだ」

「あ?ポーションがあるだろ」

「ポーション……錬金術は普通にあるのか」

「錬金術はある」

「なのに魔法使いがいないのは不思議だな……」

「どういうことだ?」

「錬金術も魔法も似たようなものだからな」


 あっさり答えるセスにギルは理解する。思考が根本的に違うことに。


「錬金術だって決められた人にしかできない」

「……あぁ、まず前提が君と僕とで違うのか」


 セスも会話がおかしいことに気づき訂正する。


「魔法は世界中の誰もが使えるものだ。もちろん君もね」

「俺が……?」

「この世界の住人は魔力を視るという認識がないのか?さっきの冒険者協会でもそうだったが用意された魔法陣を使うのにも本人の魔力がいる。すなわちあの職員たち全員も魔法が使えるということだ」

「その魔力というものが俺にもあるのか?」

「あぁ、体に纏ってるように視える。だがそれを感じ取れないというのはきっと生きてきてから魔法という存在が遠いからなんだろうな。この世界の一部の魔法使いはみんなより感覚が優れていたんだろう」

「あ、あの……」


 会話が第三者によって区切られたことでここが書店だということを思い出す。あまりにも存在感が薄いものだから忘れてた……なんてことはない。

 セスはおじいさんの顔の前でパチン、と指を鳴らす。


「なにをした」


 ぼう、と遠くを見つめるようなおじいさんの視線にギルバードは咎めるような声を出す。


「今の会話を他人に流されたら困るからな、少しだけ記憶を切り取っただけだ」

「記憶を切り取る?」

「細かい説明は面倒くさいから省くぞ。安心してくれ、危害はない魔法だ。ただ今の会話が別の会話になるようにした」


 そこで、意識が戻ったおじいさんはギルとセスをみてまた慌てふためく。


「き、鬼人の兄ちゃんが王様に仕えたことは内緒にするので安心してください!墓まで持っていきますから!」


 盛大に勘違いしたおじいさんにギルは顔を引きつらせる。

 面倒くさくなる前に店を出ると、ギルはセスに舌打ちをした。


「どんな記憶を入れ替えたんだよ!」

「この魔法の厄介なところは空白になった記憶がどうなるかわからないところなんだ」

「お前なぁ……!」

「どうやら今回はおじいさんがみた俺たちの第一印象が会話の記憶になったみたいだな」

「ッ……!はぁ、魔法使いってこんな自由人なのか?それともお前が特別おかしいのか?」

「この世界の魔法使いに会えばわかるんじゃないか?」

「なら希望は薄いな」

「どうしてだ?あそこにいるのに」


 あっさり言い放った言葉にセスは遠くにある山のほうを見つめる。その視線に気づいたギルは驚き、思わず頭を抱えそうになった。

 セスの視界の先にあるのは一見ただの山だが、あの山には魔法使いが拠点にしてる塔が隠れている。冒険者でも一部の人間しか知らない拠点にセスが迷いなく気づいた事実にギルバートはゾクっと胸がざわついた。


「どうやって気づいた?」

「魔力があそこから不自然に漏れてるからな。大きい鉱石とかかき集めて実験でもしてるんだろ。この魔力にも気づかないし魔導書も数が限られている所を見るにこの世界の魔法はそんなに期待しないほうがいいな」

「……人数とかまで把握できるとか言わないよな?」

「さすがに距離がありすぎる。やろうと思えばできなくはないが、疲れるからやらん」

 

 やらないだけでできる。あの山にいる魔法使いを検知できるということはこの国全土を把握できるといってるようなものだ。

 山を見つめるセスの横顔をみてギルは確信した。この男のそばに居れば確実に面白いことが起こると。


 そんな思考をされていることに気づかないセスは期待が外れたことが残念だったのか少しばかり重くなった足取りで宿屋に戻ることとなった。











 宿屋の一室で紙を捲る音とペンを走らせる音、そして数を数える声が静かに響き渡る。

 セスは買った魔導書の解読、ギルは部屋の中で筋トレという自由な行動をとっていた。

 この状態が数時間続き、ついにセスが最初の言葉を発した。


「ギル、来てくれ」

「なんだ?」


 汗を垂れ流しながら近づいてくるギルにセスは手のひらをギルの顔の前に翳す。

 魔法発動の合図にパチン、と指を鳴らすとギルの頭上から大量の水が落ちてきた。


「うわっ」

「っ、てめぇなにしやがる」

「悪かったな、まさかこんなに水が降ってくるとは……」


 水の勢いがよくてお互いビシャビシャに濡れ、床は大惨事になった。

 床に置いてた紙や布団まで濡れてる。

 セスが軽く手を振ると、床に溜まった水は宙に浮いて集まっていく。そのまま窓の外に水が放出されていった光景にギルの視線が釘付けになる。


「随分便利な魔法を使うようだが……どうしてこうなった」

「さっき買った魔導書に“汗を書いたときにさっぱりする魔法”って書かれてたんだよ。今のギルならちょうどいいかと思ったんだが……細かい解説もないし書いてることめちゃくちゃでとりあえずそのまま使ってみたらこうなった」

「そんな下らん魔法があるのか」

「魔法なんてくだらないものばかりだよ」


 もう一度指を鳴らすと二人の体の周りに優しい風が吹く。濡れていた服が乾き、きれいさっぱり元通りになるとセスはまた机に向かいペンを握った。


「水が使われてるのは……あぁここか」

「また今のやるつもりか?」

「もうやらない。この本当たりかと思ったがダメだな、まるで魔法の基礎がなってない」

「魔法の基礎?」

「魔法はイメージの世界だ。想像がつかない魔法はできない。例外もあるけど」


 セスは紙に人の形を書いてギルに見せる。


「この本には汗を流すだけの魔法式しか組み込まれてないから雑なんだ。要はただ水をぶっかければさっぱりするという横暴なイメージの魔法」


 さき程のように大量の水を被るイラストを見せると、セスはその隣にシャワーから水を浴びてるイラストを書いた。


「僕なら汗を流してさっぱりするならこうする」

「雨を浴びてるのか?」

「シャワーだ」

「シャワー?」


 お互い目を合わせて数秒固まるとセスは青ざめた。


「この世界の風呂はどうなってる」

「冒険者ならたまに水を浴びるぐらいだな」

「お、お湯は!?湯舟ぐらいあるだろ!?」

「そういうのは貴族しか使わねぇな。だが温泉はある。遠いけどな」


 その言葉にセスは今日一肩を落としショックを受けた。


「もう無理だ……生きていけない」

「そ、そんな大事なことか?」

「死活問題だ」

「お前、前の世界で本当に貴族だっただろ」

「貴族だったがここよりは魔法がかなり発達していた。文明はまだ来たばかりだからわからないが」

「爵位は?」

「公爵だ」


 思ってたより上の爵位だったのかギルは言葉に詰まった。


「そりゃ世話されるのが当たり前か。一人で風呂にも入れない坊ちゃんかよ」

「何を誤解しているんだ。言っただろ、シャワーがあるって。それがあれば使用人の手なんて借りなくていい。だが……二個前の世界では使用人がいたな」

「は?」

「そういう時代だったからな」

「いや、そうじゃなくて」


 セスが意味が分からないという顔をするとギルは大きくため息をつく。

 いい加減驚くのも疲れてきた、とギルは思う。まるでびっくり箱を開け続けてる気分になる。


「二個前の世界だと?お前何回も世界を渡っているのか」

「言ってなかったか?この世界で七回目だ」

「……お前もしかしてジジイか」

「失礼だな、肉体的には二十代だ」

「年齢は」

「千年は越えてる」

「エルフかよ」

「立派な人間だ」


 世界が変わるたびに肉体もリセットされるから若く見られて当然のこと。


 だがそんな年齢の話なんて今のセスにはどうでもいいことだった。


「そんなことより風呂だ。冒険者は外で水を浴びるのか?」

「ほとんどが川の水だな」

「冷たいだろ……」

「大体昼間に浴びるから丁度いいんだ。ここらの気候は暑いほうだからな」


 窓の外を見るとすでに日は落ちかけていて綺麗な夕焼けが見えていた。


「ここから温泉があるところと川どっちが近い」

「川だな。町の外に出ることになるがここの宿は城壁に近い。温泉がある施設は歩いて……二時間ぐらいか?」

「そっちに移住しようかな」

「冒険どうすんだよ」

「一年の猶予あるからな」

「俺がヤダ」

「何言ってんだ、俺だけ行くに決まってんだろ。どうせ一週間の契約だ」


 あっさり言い放つセスにギルは唖然とする。

 というより、その言葉にショックを受けた自分自身に驚いた。一週間の契約なんてわかりきっていた。出会ったばかりだしお互いまだ全然知らない仲なのにも関わらずギルの頭の中ではこの先もずっと一緒にいる考えを持っていたからだ。

 手放すのは惜しい人材だと確かに思った。だがそれまでだったはずなのに一体この数時間でなぜこの男にここまで心を奪われたのか。


 


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